子宮頸がんワクチン接種後の症状に関連する実験データを科学的に評価

2022/08/22

文:がん+編集部

 子宮頸がんワクチン接種後の症状に関連する実験データが、科学的に評価されました。子宮頸がんワクチンを正しく理解するために、役立つ研究成果です。

「HPVワクチン接種後に神経運動症状が生じる理論的証拠」とされる論文の研究方法に明らかな誤りがあると評価

 近畿大学は2022年8月2日、子宮頸がん予防に使われているヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンとの関連性において、ワクチン接種後にみられる「重篤な神経系の障害による多様な症状(副反応)」を実験的に再現したとして報告された基礎研究データを、専門家の立場から詳細に検討し、それらの科学的根拠を評価した論文が、国際的な学術誌「Cancer Science」に掲載されたことを発表しました。同大学医学部産科婦人科学教室の松村 謙臣主任教授と、微生物学教室の角田 郁生主任教授を中心とする研究チームによるものです。

 HPVは、子宮頸がん、中咽頭がん、肛門がんなどのHPV関連がんを引き起こす要因の1つです。子宮頸がんの予防を目的に、HPVワクチンが2009年に承認され定期接種が開始されました。しかし、HPVワクチンの接種後のさまざまな精神神経症状が、HPVワクチンの副反応であると議論が起こり、HPVワクチンの安全性について懸念が示されました。

 HPVワクチン薬害訴訟の原告弁護団のホームページに、「HPVワクチン接種後に神経運動症状が生じる理論的証拠」としてリストアップされた動物実験を含む基礎研究の論文を、研究チームは婦人科がんと神経免疫学の専門家の立場から評価しました。

 これまで、「HPV L1タンパクが、ヒトの体を構成する生体分子に類似しているために、HPVワクチン接種後によってできる抗HPV L1抗体がヒトの臓器にも結合し、臓器障害が生じる」という研究結果が報告されてきました。しかし、論文データをあらためて検討すると、その研究方法には明らかな誤りがあると研究チームは評価。

 また、HPVワクチンによる「重篤な神経系の障害」を実験的に再現したとする2つの動物実験論文を、論文に示された研究方法と結果を詳細に検討したところ、データに論理的な合理性がなく、再現性の検討も不十分であると評価しました。

 研究チームは、次のように述べています。

 「これらの検証により、HPVワクチン接種による多様な症状の理論的根拠と考えられてきたデータは、科学的な質が不十分であると考えられます。科学的に不十分な実験データを、HPVワクチン接種後に生じる多様な症状の理論的な根拠とすることは、正しい解決策を提示するための障害となります。そして、HPVワクチンに対する不十分な理解は、HPVワクチン接種率の低下を招きます。今後、HPVワクチン接種後の症状に関して、科学的に質の高いデータを蓄積していくことが求められます」