がん細胞のみを攻撃する人工免疫細胞と人工ウイルスを用いた新しい治療の開発に成功

2022/08/23

文:がん+編集部

 がん細胞のみを攻撃する人工免疫細胞と人工ウイルスを併用する、新しい治療の開発に成功しました。悪性脳腫瘍に対する治療として期待されます。

「CAR-T細胞療法+デリタクト」、腫瘍の成長を抑制し生存期間を延長させることを動物実験で確認

 名古屋大学は2022年8月3日、がん細胞の表面タンパク「ポドプラニン」を見分けるキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞の作製に成功したことを発表しました。同大学未来社会創造機構の夏目敦至特任教授、東京大学医科学研究所先端がん治療分野の藤堂具紀教授、東北大学大学院医学系研究科分子薬理学分野の加藤幸成教授らの共同研究によるものです。

 ポドプラニンは、がん細胞の表面のタンパクでがんの悪性化と関係しています。しかし、ポドプラニンは、肺、腎臓やリンパ管にも発現していることが課題でした。本研究では、正常のポドプラニンにはない、異常な「糖鎖」を見分ける抗体の遺伝子配列の一部とT細胞の遺伝子の一部をハイブリッドさせたCAR-T細胞の作製に成功。このCAR-T細胞を実験用マウスの全身に投与したところ、悪性脳腫瘍の膠芽腫細胞だけを正確に攻撃することが確認されました。

 悪性神経膠腫の適用で2021年6月に承認されたテセルパツレブ(製品名:デリタクト)は、ヘルペスウイルスを改変して作られた第3世代のがん治療用ヘルペスウイルス薬です。このウイルスも、脳腫瘍のがん細胞だけに感染し、がん細胞を破壊します。

 研究グループは、この2つの治療法を併用することで、今回開発されたCAR-T細胞療法を単独で行うよりも、飛躍的に腫瘍の成長を抑制し生存期間を延長させることがマウスの動物実験で確認されました。

 研究グループは成果の意義として、次のように述べています。

 「本研究により、悪性脳腫瘍の治療にもキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法が期待できる可能性が明らかになりました。マウスの実験では、副作用は確認されず高い安全性が確認されましたが、今後の臨床試験での応用を目標に、ヒトへの安全性を十分に検討する方針です。また、CAR-T細胞療法とウイルス療法の併用療法がCAR-T細胞療法の効果を強めるという結果が得られたことから、悪性脳腫瘍である膠芽腫の新規治療法が期待されます。今後、この併用療法の実現に向けてさらなる免疫学的メカニズムの解明が必要と考えられます」