固形がんにも効果のあるヒト化CARの作製に成功

2022/09/26

文:がん+編集部

 脳腫瘍や骨肉腫などさまざまな悪性腫瘍に高発現している「PDPN」をターゲットにした、ヒト化CAR「NZ-27 CAR」の作製に成功しました。

動物実験では、細胞傷害活性能、炎症性サイトカイン産生能、抗腫瘍効果が有意に向上

 京都大学iPS細胞研究所は2022年9月6日、固形がんにも効果のあるヒト化CAR「NZ-27 CAR」の作製に成功したことを発表しました。同研究所の石川晃大大学院生、早稲田真澄研究員、金子新教授、東北大学大学院医学系研究科分子薬理学分野の加藤幸成教授らの共同研究によるものです。

 CAR-T細胞療法は、血液がんに対して高い治療効果得られ注目されています。しかし、固形がんに対しては、治療効果が低く、有効性を高める研究が多く行われています。CAR-T細胞が体内で長期生存できないことが、治療効果が低い原因としてされており、CAR遺伝子配列をヒト化することが解決策の1つと考えられています。

 研究グループは、脳腫瘍などの固形がんに多く発現し、がん患者さんの予後不良と関連するPDPNをターゲットにしたヒト化CARを作製。新しく作製されたヒト化CARであるNZ-27 CARはこれまでに作成されたPDPN特異的CARであるヒト化されていないNZ-1 CARと比較してT細胞表面に有意に発現し、PDPN特異的なT細胞活性化シグナルの向上が観察されました。

 マウスによる動物実験では、NZ-27 CAR-T細胞はNZ-1 CAR-T細胞と比較してPDPN発現細胞に対する細胞傷害活性能、炎症性サイトカイン産生能、PDPN発現腫瘍に対する抗腫瘍効果が有意に向上しました。

 研究グループは、次のように述べています。

 「本研究ではNZ-1 CARおよびNZ-27 CARの総タンパク質量に有意な差は観察されなかったのに対し、T細胞膜上のCARの発現量に有意な差が生じる結果となりました。遺伝子が転写・翻訳された後、細胞内小器官で様々な翻訳後修飾が行われ、タンパク質の機能・局在・安定性が決定されることから、ヒト化による翻訳後修飾が細胞膜上での発現量の差をもたらしたのではないかと考察されます。この知見をより解析することによって新しいヒト化CAR創出が促進されること、iPS細胞から作製されたT細胞への応用、PDPN発現がん細胞に対する治療効果を向上させたNZ-27 CARを用いた臨床応用などに貢献することが期待されます」