がん免疫療法の効く・効かないは「糖鎖」が鍵である可能性
2022/09/27
文:がん+編集部
がん細胞死を促進する新たな「糖鎖構造」と「制御機構」が解明されました。がん免疫療法の効く・効かないは「糖鎖」が鍵となっており、治療効果の予測とその予測に基づいた新たながん治療戦略の開発につながることが期待されます。
TRAIL受容体分子標的薬の治療効果の予測とその予測に基づいた新たながん治療戦略の開発に期待
大阪大学は2022年9月7日、腫瘍免疫監視機構の一翼を担う分子である「TRAIL」によるがん細胞死を制御する糖鎖構造を発見し、その糖鎖構造が、TRAIL受容体が関わるがん治療の効果を予測する因子となり得ることを発表しました。同大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座の三善英知教授、東邦大学医学部生化学講座の森脇健太准教授、大阪大学大学院医学系研究科の大薗恵一 教授、京都大学の井上正宏特定教授、大阪国際がんセンター研究所の宮本泰豪部長、産業技術総合研究所の梶裕之上級主任研究員らの共同研究グループによるものです。
ヒトの体内では毎日数百~数千ものがん細胞が発生していますが、白血球が監視し排除する「腫瘍免疫監視機構」により、がんの発症が抑えられています。
研究グループは、細胞傷害性リンパ球に発現する「TRAIL」という物質に注目。TRAILは、その受容体を発現するがん細胞に細胞死を誘導することで、がん細胞の増殖を抑制する働きがあり、腫瘍免疫監視機構の一翼を担っています。マウスによる動物実験では、TRAILには正常細胞に損傷を与えず、がん細胞に特異的に細胞死を引き起こす性質があることが確認されています。しかし、これまでにさまざまな種類のがんに対して臨床試験が実施されましたが、TRAIL耐性を有するがん細胞の存在などの理由により十分な治療効果が見られない患者さんもおり、未だ臨床応用には至っていません。TRAIL誘導性細胞死のメカニズムや治療効果を予測する因子の解明などが必要とされる中、研究グループはこれまでに「フコシル化」という糖鎖修飾がTRAIL誘導性細胞死を制御することを明らかにしてきました。
今回、研究グループは、いくつかの種類があるフコシル化糖鎖のうち、どの種類がTRIL誘導性細胞死を亢進させるかを調べたところ、「ルイス糖鎖」が存在するとTRIL誘導性細胞死が亢進されることがわかりました。また、このルイス糖鎖が、糖脂質に付加されることでTRIL誘導性細胞死を制御することもわかりました。
さらに、複数のヒト大腸がん細胞株や、大腸がん患者さんのがん組織から樹立した細胞を用いて、がん細胞表面上のルイス糖鎖の発現量とTRAIL誘導性細胞死への感受性を調べたところ、ルイス糖鎖の発現量が多いがん細胞ではTRAIL誘導性細胞死への感受性が高いことがわかりました。このことから、がん細胞のルイス糖鎖の発現量はTRAIL受容体分子標的薬の治療効果を予測する因子となり得ることが示されました。
研究グループは本研究成果の意義として、次のように述べています。
「ルイス糖鎖は細胞のがん化によって増加することから、古くから腫瘍マーカーとして利用されており、特に有名な腫瘍マーカーであるCA19-9もルイス糖鎖に含まれます。CA19-9の測定、または糖脂質上のルイス糖鎖を特異的に認識する抗体の樹立とその利用によって、開発中のTRAIL受容体分子標的薬の治療効果の予測とその予測に基づいた新たながん治療戦略の開発が可能となることが期待されます。また、TRAILはCAR-T療法などのがん免疫療法の治療効果を規定する因子であるということも分かっています。そのため、今回の発見は、新たながん免疫療法の治療効果予測法や治療戦略の開発につながることが期待されます」