EGFR変異肺がんの薬剤耐性機序としての融合遺伝子の包括的研究を発表
2022/10/25
文:がん+編集部
EGFR遺伝子変異のある肺がんの薬剤耐性の原因となっている融合遺伝子とそうでないものの見分け方を明らかにし、さらに薬剤耐性を克服するための有効な併用療法を患者治療データと細胞実験データから提唱しました。
EGFR遺伝子変異のある肺がんの薬剤耐性の原因となっている融合遺伝子とそうでないものの見分け方を解明
国立がん研究センターは2022年10月7日、日本人を含むアジア人の肺腺がんの半数を占めるEGFR遺伝子変異のある肺がんの薬剤耐性機序としての融合遺伝子を包括的に調べ、実際に薬剤耐性の原因となっているものとそうでないものの見分け方と、克服するための有効な併用療法を患者治療データと細胞実験データから提唱したことを発表しました。同研究センター研究所分子病理分野の小林 祥久研究員を中心とした国際共同研究グループによるものです。
進行期・再発のEGFR遺伝子変異のある肺がんには、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が標準治療となっていますが、約1年から2年で薬剤耐性を獲得して効かなくなってしまうことが問題となっています。耐性機序の一つとして、EGFR遺伝子以外の2つの遺伝子が融合して新たな融合遺伝子を形成する現象が見られますが、融合遺伝子を正確に検出する方法は確立しておらず、また、どのように治療すれば良いか明らかになっていませんでした。
研究グループは、EGFR遺伝子変異のある肺がん患者さん504人のDNA検体を次世代シークエンサーで解析し、潜在的な融合遺伝子の包括的な調査を実施。実際の患者さんの治療経過、RNAシークエンス、ゲノム編集細胞実験データを統合することで、各融合遺伝子の役割を調べたところ。薬剤耐性としての機能をもつ融合遺伝子は一部でしかないことが明らかになりました。また、細胞実験から融合遺伝子に有効な併用療法、さらに併用療法に対する将来的な薬剤耐性機序とその克服法についても明らかにしました。
研究グループは展望として、次のように述べています。
「本研究では、DNAを使った次世代シークエンス、RNAシークエンス、臨床情報、細胞実験など病院と研究所の総力戦で治療標的となる融合遺伝子の検出に挑みましたが、個々の患者さんに対して行うことは非現実的であるため、将来的には単一の検査で治療標的となる融合遺伝子を正しく検出できる方法の開発が求められます。さらに次のステップとして、その検査の結果に応じて有効な併用療法の効果を評価する臨床試験を行うことで、治療法の保険収載・実臨床での患者さんの治療につながると期待されます。融合遺伝子の克服には、研究・臨床の両方の面からのさらなる研究が必要です」