がん治療で起こる二次性リンパ浮腫に対する新たな治療法を開発

2022/11/16

文:がん+編集部

 がん治療で起こる二次性リンパ浮腫に対する、新たな治療法が開発されました。ニンニクの匂い成分に多く含まれる「DATS」という物質を投与することにより、リンパ管新生が促進され浮腫が軽減される事が発見されました。難治性二次性リンパ管浮腫に対する、有用な治療方法となる可能性が示されました。

ニンニクの匂い成分に多く含まれる「DATS」が、リンパ管新生を促進させ浮腫を軽減させることを発見

 名古屋大学は2022年10月28日、DATSというニンニクの匂い成分に多く含まれ、体内に取り込まれると硫化水素を発生する物質を投与することにより、リンパ浮腫組織において、リンパ管新生を促進させ、浮腫を軽減させるメカニズムを発見したことを発表しました。同大学大学院医学系研究科循環器内科学の鈴木淳也大学院生、清水優樹助教、室原豊明教授らの研究グループによるものです。

 二次性リンパ浮腫は、見た目の問題だけでなく、四肢の機能障害、繰り返す疼痛や炎症などを引き起こし著しい QOL(Quality of Life)の低下を引き起こす疾患です。しかし、リンパ浮腫に対する治療は、対症療法が中心となっており、根本的な治療が難しいのが現状です。

 研究グループは、抗酸化作用や免疫調節、代謝、血管新生や血管拡張などに広く関わっている硫化水素によるリンパ管新生療法が、新たな二次性リンパ浮腫に対する根本的な治療となる可能性について検証を行いました。

 人為的に二次性リンパ浮腫を発生させ、生体内で硫化水素を発生させる酵素「CSE」を欠損させたマウス(CSE-KOマウス)と通常のマウスを作製し比較したところ、リンパ浮腫組織における硫化水素濃度はCSE-KOマウスで低下していることが確認されました。次に、リンパ浮腫作成4週間後まで観察したところ、CSE-KOマウスではリンパ管の発達が乏しく、リンパ浮腫の程度が増悪することが明らかとなりました。

 二次性リンパ浮腫を発生させた通常のマウスに対してDATSを腹腔内に投与したところ、DATSを投与しなかったマウスに比べ、血液中やリンパ浮腫組織中の硫化水素濃度が上昇することが確認されました。さらに、リンパ浮腫作成4週間後まで観察すると、DATSを投与したマウスでは、リンパ浮腫の程度が軽減することもわかりました。次に、顕微鏡でリンパ浮腫組織を観察すると、DATSを投与したマウスではより多くの新生リンパ管内皮細胞が認められ、リンパ管新生が促進されることが示されました。このことから、DATSの投与により、生体内で硫化水素が生成され、リンパ管新生が促されリンパ管の機能不全が改善され、リンパ浮腫が軽減したことが示唆されました。

 詳細な治療メカニズムを解明するため、培養ヒトリンパ管内皮細胞による細胞レベルでの実験を実施。リンパ管内皮細胞にDATSを添加すると硫化水素が生成され、リンパ管内皮細胞がより活発に増殖し、細胞の遊走能や管腔形成能も促進されることがわかりました。また、その過程で硫化水素はリンパ管内皮細胞に直接働き、一部はPI3K/Aktシグナルを介していることも実証されました。

 これらのことから、生体内で硫化水素を発生させることで、リンパ管新生を促進し、二次性リンパ管浮腫軽減につながることが示され、硫化水素を標的とする治療方法が、二次性リンパ浮腫に対する新たな治療になり得る可能性が示されました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究では、マウスにおいて硫化水素を標的とすることでリンパ管新生を促進し、二次性リンパ管浮腫を改善させることが証明されました。この結果を受け、今後は中型動物や大型動物での安全性と有効性を検証したのちに、最終的には実際の患者に対する治療法として確立していく事を目指し、さらなる研究を進めていきたいと考えています」