タグリッソ、T790M陰性非小細胞肺がんに対し医師主導治験で有効性を確認

2022/12/19

文:がん+編集部

 従来の治療薬が効かなくなった非小細胞肺がん患者さんを対象に、オシメルチニブ(製品名:タグリッソ)を用いた医師主導治験で有効性が確認されました。

肺がん患者会からの要望をもとに、医師、製薬会社に提案され実現した国内初の試み

 近畿大学は2022年12月2日、従来の治療薬が効かなくなった非小細胞肺がん患者さんに対し、分子標的治療薬オシメルチニブを用いた医師主導治験を実施し、その有効性を確認したことを発表しました。本治験は、肺がん患者会からの要望をもとに、医師、製薬会社に提案し実現したもので、国内で初めての試みです。

 非小細胞肺がんの多くは、がん細胞上のEGFRというタンパク質に変異が生じることで、がん細胞が増殖し続けることが知られています。そのため、EGFRに変異がある非小細胞肺がんに対しては、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)による治療が有効とされていますが、EGFR-TKIで治療をした患者さんでは、耐性化により治療薬が効かなくなることがあります。その原因は、EGFR遺伝子にT790Mという耐性遺伝子が出現することによりEGFRタンパクの構造変化が起こり、第1世代、第2世代のEGFR-TKIがEGFRタンパクに結合できないためであると判明しています。そのため、T790Mの変異があるEGFRに結合して、EGFR活性を阻害できる新たな第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブが開発されました。

 しかし、その後オシメルチニブはT790Mの変異の有無に関係なくすべてのEGFR遺伝子変異陽性患者で初回治療での使用が有効であると証明され、初回の治療からオシメルチニブが使用されることになりました。そのため、 オシメルチニブ承認前に第1世代、第2世代のEGFR-TKIで治療を開始した患者さんでは、耐性により治療薬が効かなくなったとき、T790M陰性の患者さんではオシメルチニブが使えないため、T790M陰性の患者さんへの適応拡大を求める声が肺がん患者会からあがりました。

 そこで、肺がん患者会からの要望をもとに、医師、製薬会社に提案し医師主導治験が実現しました。本治験の結果、耐性により治療薬が効かなくなったT790M陰性の患者さんに対し、オシメルチニブの有効性が確認されました。

 研究者代表の近畿大医学部内科学教室の中川和彦主任教授は、次のように述べています。

 「西日本がん研究機構主催の市民公開講座を開催していた時、肺がん患者会ワンステップ理事長の長谷川 一男氏から『患者会から医師主導治験をお願いしたら実施は可能ですか。費用は患者会で集めます。』との相談を受けました。肺がん患者会の参加者から、EGFR遺伝子変異陽性で耐性遺伝子であるT790M遺伝子が陰性の患者さんは、承認されたオシメルチニブで治療が受けられなくて悔しい思いをしておられる、とのことでした。その際、オシメルチニブを製造販売している製薬企業の支援を受ける必要がある旨お伝えし、企業宛に要望書の提出をお願いしました。長谷川氏から1か月後に要望書が届いたことが始まりで、医師主導治験実施者の立場として、要望書に加筆し製薬企業に連名で提出しました。製薬企業としても初めての経験ということもあり、治験実施が決まるまでには多くの紆余曲折がありました。絶望的な状況にも至りましたが、その製薬企業で関わられた国内外の担当者のご支援もあり奇跡的に実施することが可能となりました。このような困難な歩みの中で実現した本治験がオシメルチニブのT790M陰性の患者さんへの有効性を示しました。がん患者会提案型の医師主導治験成功の歴史的結果により、患者さん自身でもできることとして、大きな可能性を発見されたと思います」