大腸がんの再発原因となる「がん幹細胞」を発見

2023/03/27

文:がん+編集部

 大腸がんの再発原因となる、がん幹細胞が発見されました。がんの根治へつながる新たな治療法の開発が期待されます。

従来の抗がん剤治療だけでは不可能だったがんの根治へつながる治療開発に期待

 九州大学は2023年3月8日、大腸がんの再発原因となるがん幹細胞を発見し、その分子メカニズムの一端を解明したことを発表しました。同大学⽣体防御医学研究所の中山敬⼀主幹教授、⽐嘉綱己助教、岡毅寛研究員らの研究グループによるものです。

 大腸がんの中には性質の異なる多様な細胞が存在しており、その中の⼀部であるがん幹細胞は、がんの増殖や再発を起こす細胞であるといわれています。研究グループは、実際の患者さんの生理的環境を再現した大腸がんモデルを樹立し、腸管の悪性腫瘍を解析。がん幹細胞の中にも細胞増殖の状態が異なる2種類の細胞集団が存在することを明らかにしました。そして、このうち増殖の遅い方の集団には、細胞周期の停止に重要な「p57遺伝子」が特異的に発現していることを発見しました。従来の抗がん剤は増殖の速い細胞をターゲットとして設計されているため、p57発現細胞には効果が薄いこともわかりました。そこで、p57発現細胞を特異的に除去する薬剤と抗がん剤を併用したところ、がんの再発は強力に抑制され、p57発現細胞が大腸がん再発の主要な原因の1つであることが証明されました。

 今回の発見は、p57が増殖の遅いがん幹細胞の目印としてだけでなく、抗がん剤抵抗性を司る実体分子として働いていることも示唆しており、将来的にがんの有望な治療標的になることが期待されます。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「p57は細胞周期の停止に重要な遺伝子で、細胞増殖の強力なブレーキとして働くことが知られています。つまりp57はがん幹細胞に特異的に発現することで、単にそのマーカーとして有用なだけでなく、この細胞の重要なアイデンティティーである休眠状態の維持に直接寄与していると考えられます。休眠状態によって抗がん剤への抵抗性がもたらされることを考えれば、p57の分子機能を阻害することでがん幹細胞は休眠から目覚め、抗がん剤によって根絶可能になることが期待されます。私たちは今後さらにp57発現細胞の研究を発展させることで、従来の抗がん剤治療だけでは不可能だった、がんの根治を目指して研究を進めていきたいと考えています」