世界最大の胃がんゲノム解析により日本人胃がんの治療標的を同定

2023/04/03

文:がん+編集部

 世界最大の胃がんゲノム解析により、日本人胃がんの有望な治療標的が同定されました。さらに、びまん型胃がんの発症と飲酒との関連も発見され、新たな予防法の開発が期待されます。

びまん型胃がん、飲酒との関連もゲノム解析から初めて発見

 東京大学医科学研究所は2023年3月14日、世界最大となる胃がんゲノム解析を行い、新たな治療標的として有望なものも含めこれまでで最大の75個のドライバー遺伝子を発見したことを発表しました。同研究所附属ヒトゲノム解析センター・ゲノム医科学分野の柴田龍弘教授を中心とする研究グループによるものです。

 研究グループは、国際がんゲノムコンソーシアムにおける国際共同研究により、日本人胃がん患者さん697人を含む総計1,457人となる世界最大の症例コホートを用いて、全エクソン解読 (1,271)、全ゲノム解読(172)、RNAシークエンス解析 (895)を実施。解析の結果、胃がんにおけるドライバー遺伝子を75個発見しました。何らかの治療法が知られているドライバー遺伝子を一つ以上持っている患者さんは、全体の約25%に認められ、すでに胃がんに対して臨床で使用可能な治療薬があったのは、全体の約10%でした。

 治療標的としては、VEGFA, FGFR2キナーゼ、PD-L1/L2といった免疫チェックポイント分子のゲノム異常、NRG1/2やRETなど複数のキナーゼ融合遺伝子が同定でき、新たな治療標的として有望と考えられました。

 また、今回の胃がんのゲノム解析においては14種類の変異シグネチャーが同定され、中でもSBS16という変異シグネチャーは、「東アジア人種に多いびまん型胃がん」「男性」「飲酒量」「アルコールを代謝しにくい体質」と有意な相関を示しました。さらに、びまん型胃がんの発症において鍵となるドライバー遺伝子であるRHOA遺伝子の変異がSBS16で誘発されることが示され、飲酒に関連したゲノム異常がRHOAドライバー変異を誘発し、びまん型胃がんを発症することがゲノム解析から明らかになりました。

 研究グループは展望として、次のように述べています。

 「本研究によって、これまで発症要因が不明であった予後不良なびまん型胃がんについて飲酒並びにアルコール代謝関連酵素の遺伝子多型が重要な危険因子であることを初めて明らかにしました。今後飲酒に関連するゲノム異常がどのように発生するのかを詳細に検討することで、びまん型胃がんの予防につなげていくことが期待されます。また、びまん型胃がんを含め、日本人胃がんにおける治療標的となるドライバー遺伝子や免疫療法の予測因子となりうるゲノムバイオマーカーの全体像を解明しました。これらのデータは、今後日本人における胃がん治療法開発や予後改善に貢献することが期待されます」