ヒトiPS細胞からさまざまながんを攻撃する「γδT細胞」を作製することに成功

2023/04/12

文:がん+編集部

 ヒトiPS細胞からさまざまながんを攻撃する「γδT細胞」を作製することに成功。今後、がんや感染症などに対する次世代型免疫細胞療法に用いられることが期待されます。

がんや感染症などに対する免疫細胞療法のコスト低減と高機能化の実現に期待

 神戸大学は2023年3月24日、iPS細胞からさまざまながんを攻撃する「γδT細胞」を作製することに成功したことを発表しました。同大学大学院医学研究科の青井貴之教授らの研究グループによるものです。

 γδT細胞はさまざまな種類のがんを攻撃することができ、さらに正常細胞を攻撃しないため、体外で増幅してがんに対する免疫細胞療法に用いようとする取り組みが行われてきました。しかし、血液から調製するγδT細胞の増幅力には限界があります。研究グループは、無限の増殖能と分化多能性を持つiPS細胞に着目し、γδT細胞からiPS細胞を作製することに成功していました。また、そのiPS細胞が血液細胞の元になる造血幹細胞に分化する能力があることを確かめていましたが、さらにそこから、機能的なγδT細胞を作製することができるか否かは未確認でした。

 研究グループは、γδT細胞から作製したヒトiPS細胞から、γδT細胞を作製することに成功し「iγδT細胞」と命名。iγδT細胞は、その元となった細胞の提供者とは別人の大腸がん細胞、肝臓がん細胞、白血病細胞を攻撃することが確認されたことから、iγδT細胞はその元となった細胞の提供者以外の人のがんの治療に有効であることが示唆されました。

 さらに、iγδT細胞の1細胞ごとの遺伝子発現を網羅的に解析したところ、末梢血由来γδT細胞を体外増幅培養して得られた細胞の主たる集団とは異なる特徴を示しました。一方、新鮮な末梢血液中に存在する、本物のγδT細胞とiγδT細がそっくりであることがわかりました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究では、ヒトiPS細胞から機能的なγδT細胞を作製することに成功しました。今回は動物細胞や血清を用いた方法で作製していますが、臨床応用に好ましいように、それらを用いない方法でのiγδT細胞作製にもすでに成功しています (未発表)。将来的にはiγδT細胞をがんに対する免疫細胞療法に用いることが期待されます。また、iPS細胞は遺伝子操作を行うのが比較的容易なため、その段階で遺伝子操作を行うことで、より高機能な免疫細胞療法製剤を作ることも期待されます。具体的には、細胞の活性を上げるような遺伝子操作や、がんや感染症に対するCAR-T療法やTCR-T療法への応用を行うことです。いずれも、患者ごとのオーダーメイドではなく、あらかじめ大量製造しておく、“既製品” (Off-the self)とすることで、品質の安定や患者当たりのコストの大幅な低減が見込まれます」