膵臓がん治療薬「ジェムザール」が効かなくなるメカニズムを解明
2023/05/19
文:がん+編集部
膵臓がんの治療に広く使われている抗がん剤ゲムシタビン(製品名:ジェムザール)が効かなくなる主な原因が、特定の酵素の機能低下にあることが明らかになりました。
MYC阻害薬グルタミンアナログ、ジェムザールの効かなくなったがん細胞に有効
近畿大学は2023年5月1日、膵臓がんの治療に広く使われている抗がん剤「ゲムシタビン」が効かなくなる主な原因が、特定の酵素の機能低下にかかわるメカニズムを解明したことを発表しました。同大学医学部生化学教室の岡田斉主任教授、大学院医学研究科博士課程4年生のスーマン・ダッシュ氏らの研究グループによるものです。
ゲムシタビンは膵臓がんに効果を示す標準的な抗がん剤の1つですが、膵臓がん細胞は、治療経過中にしばしば薬剤耐性を獲得し、治療効果が認められなくなることが臨床上の課題となっています。
研究グループは、膵臓がん細胞株で約2万個のヒトの遺伝子を個別に破壊し、ゲムシタビン抵抗性の原因となる遺伝子の探索を実施。その結果、DNAの構成成分であるデオキシシチジンをリン酸化する酵素「Deoxycytidine kinase(DCK)」の機能低下が、ゲムシタビンが効かなくなる主な原因の1つであることを発見しました。
また、DCKの機能低下が、がん遺伝子MYCの機能と、アミノ酸の1つであるグルタミンをエネルギー源として利用する能力を高めることを発見。さらに、これらの機能を抑える働きをもつ薬剤「MYC阻害薬グルタミンアナログ」が、ゲムシタビンの効かなくなったがん細胞に実際に有効であることを明らかにしました。
本研究成果は、膵臓がんの標準的治療薬として用いられるゲムシタビンの効果がなくなった患者さんに対する、新たな治療法の開発につながるものと期待されます。
研究グループは、次のように述べています。
「本研究では、遺伝子破壊により樹立したゲムシタビン抵抗性膵がん細胞を用いて、薬剤耐性機序を明らかにし、その結果、耐性細胞の新規治療標的を見出しました。今後、今回の成果を発展させ、がんの個別化医療に貢献できればと思います」