全ゲノム解析により胃がんの新たな発がんメカニズムを解明
2023/07/11
文:がん+編集部
臨床情報が付随した胃がんの大規模な全ゲノム解析により、染色体構造異常の全体像と、染色体外DNAが胃がんの発生に寄与している新たな発がんメカニズムが解明されました。
染色体外DNAが胃がんの新たな治療標的や分子マーカーとなる可能性
国立がん研究センターは2023年6月23日、全ゲノム解析により胃がんの新たな発がんメカニズムを解明したことを発表しました。同研究センター研究所がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長らの研究グループによるものです。
研究グループは、アジア人の胃がん170人(日本81人、香港89人)の全ゲノム解読データに対して、独自に開発したツールを適用し、全部で4万9,059か所の染色体構造異常を同定。その中には、2万2,179個の欠失、1万1,234個の重複、8,534個の反転、7,112個の染色体転座が含まれていました。
染色体構造異常を分類し解析した結果、胃がんの染色体構造異常には特徴的な6種類のシグネチャーがあることを見出しました。これらは、喫煙の有無、胃がんの組織型、ドライバー遺伝子異常と関連しており、その発生メカニズムが推定されました。また、局所的に染色体構造異常が密集している領域を解析し、新たな発がん機構として注目されている染色体外DNAを同定することに成功しました。染色体外DNAが「FGFR2」「ERBB2」「CCNE1」といった既知のがん遺伝子の高度増幅を引き起こし、胃がんの発生・進展に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
研究グループは展望として、次のように述べています。
「本研究では臨床情報が付加された大規模な胃がん全ゲノム解析データを活用することで、胃がんの染色体構造異常の全体像を明らかにできました。胃がんの染色体構造異常には一定のパターンが存在し、特徴的な臨床背景と相関していることが初めて明らかになりました。今後は、その要因を解明することで新たな予防研究への展開が期待されます。また、全ゲノム解析によって染色体外DNAが胃がんの重要なドライバー遺伝子異常に寄与していることを明らかにできました。今回の研究ではショートリード解析のみですが、今後ロングリード解析を追加することで、より詳細な検討を行うことができます。具体的には、未知である染色体外DNAの発生機序の解明によって胃がん発生の引き金となる要因を解明できる可能性があります。近年、染色体外DNAは予後不良や治療抵抗性といった悪性形質と関連することが報告されており、今後胃がんの診断や治療において染色体外DNAが新たな治療標的や分子マーカーとなる可能性があります。本研究によって、現在医療現場で使用されているがん遺伝子パネル検査だけでは検出できない遺伝子異常が全ゲノム解析で発見できることが示されました。全ゲノム解析を医療現場に活用するためには、コスト・技術・結果の解釈など様々な面で検討する余地がありますが、本研究をきっかけとして全ゲノム解析の医療現場への活用が進むことが期待されます」