乳がん検診に参加しない人たちの特徴が判明

2023/08/22

文:がん+編集部

 国民生活基礎調査(世帯票と健康票)のデータを二次的に解析した研究によって、乳がん検診に参加しない人たちの特徴が明らかになり、これらの情報から未受診を予測する簡易リスクスコアが開発されました。

「年齢」「健康保険タイプ」「過去1年以内の特定健診が未受診」の3つの変数で構成されるリスクスコアで乳がん検診未受診者が予測可能

 筑波大学は2023年7月26日、乳がん検診の未受診と関連する特徴を明らかにした研究結果を発表しました。

 厚生労働省は2016年までに、乳がん検診の受診率を50%以上にする目標を掲げていましたが、2019年時点でもこの目標は達成されていません。研究グループは、乳がん検診の受診率向上に向け、どのような人々が検診を受けないかを明らかにするため、2016年と2019年の国民生活基礎調査のデータを二次的に解析しました。この国民生活基礎調査では、現在の乳がん検診の推奨受診間隔(2年おき)に沿って、マンモグラフィ撮影や乳房超音波(エコー)検査などの乳がん検診を受診しているかを回答する項目が設けられており、今回の研究では、これらの情報を利用し、乳がん検診未受診に関連する要因を解析しました。さらに、これらのデータから、乳がん検診未受診を予測するリスクスコアを開発しました。

 分析の結果、乳がん検診の未受診と有意に関連する、下記のような特徴が明らかになりました。

  • 50歳以上
  • 独身・離婚・離別
  • 低い教育状況
  • 低い世帯支出
  • 加入している健康保険のタイプが国民健康保険
  • 小中規模企業の被雇用や非正規雇用
  • 喫煙
  • 非飲酒もしくはリスクが中~高の飲酒
  • 自覚的健康度(自身で感じている健康状態の程度)が低い
  • うつ病や不安障害の可能性を示すスコア(K6スコア)が高い
  • 特定健診の未受診
  • 医療機関の定期的な通院がない

 また、これらの関連項目の中で、影響力が大きく客観的に把握できる「年齢」(55~64歳は1点、65~74歳は3点)、「健康保険のタイプ」(国民健康保険加入者は1点)、「過去1年以内の特定健診」(未受診は8点)の3つの変数で構成される簡易リスクスコアが、乳がん検診未受診者をよく予測できることが明らかになりました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「がん検診を担う現場で本研究が活用されれば、乳がん検診を受診しない可能性が高い女性を把握し、そのような人々に定期的な受診を働きかける(ハガキの送付回数を増やすなど)ことに役立ちます。また、50歳以上では年齢の上昇に伴って受診率が下がりますが、乳がん対策の基本方針を決定する際に明確な受診推奨年齢を公表するなど、社会への働きかけが可能となります。その結果、日本の乳がん検診の受診率向上につながることが期待されます。今後はそれぞれの自治体が持つ乳がん検診のデータでも本研究と同様の特徴を認めるかを検証し、実際の乳がん検診の運用に役立てていくことが望まれます。一方、本研究は新型コロナウイルスのパンデミック前のデータを解析した研究結果になります。新型コロナウイルスのパンデミック中に乳がん検診受診率がどのように変化したのか。また、どのような特徴を持つ人たちが検診を受けなくなったのか。これらについても、最新の国民生活基礎調査のデータを解析することが望まれます」