頭頸部がんや肺がんの増殖と薬剤耐性に関わる新たなメカニズムを解明

2023/09/14

文:がん+編集部

 口腔・頭頸部がんや肺がんの増殖とEGFR阻害薬耐性に関わる、新たなメカニズムが解明されました。

AXLまたはYAP阻害薬とEGFR阻害薬を併用する、新たな治療法開発に期待

 広島大学は2023年8月23日、口腔・頭頸部および肺がんの増殖と薬剤耐性に重要な新しいメカニズムを解明したことを発表しました。同大学病院口腔検査センターの安藤俊範助教らの研究グループによるものです。

 口腔・頭頸部および肺がんでは、特にEGFR遺伝子異常を標的とした抗EGFR抗体やEGFR-TKIなどによる治療が行われていますが、耐性・再発が問題となっています。そのため、口腔・頭頸部および肺がんのいずれも、EGFR阻害薬に対する耐性メカニズムの解明が望まれています。

 これまでに研究グループは、EGFRが「Hippoシグナル経路」の下流因子である「YAP」を活性化し、口腔・頭頸部および肺がんの増殖を促すというメカニズムを明らかにしていました。一方で、EGFR阻害薬に耐性を示す症例ではYAPの活性化が報告されています。

 今回研究グループは、YAP活性化を導く未知のメカニズムを解明することで、EGFR阻害薬の耐性を防ぎ、がんの治療効果を大きく向上させることが可能になると考え研究を開始しました。がん細胞株と組織の遺伝子発現データベースを用い、YAPの活性化に最も重要な受容体型チロシンキナーゼを解析して「AXL」を同定。既存のAXL阻害薬を、AXLを高発現するがん細胞株に投与すると、YAPが不活性化され細胞の増殖が抑制されることを見出しました。

 さらに、AXLがEGFRと二量体を形成することで、EGFRとHippo経路を介してYAPを活性化することが明らかになりました。そこでAXLを高発現するがん細胞株に、EGFR阻害薬とAXL阻害薬を併用すると、それぞれの単剤に比べて、相乗的にYAPを不活性化して増殖を抑制することを見出しました。YAPを恒常的に活性化させると、この相乗的なYAPの不活性化と増殖の抑制は消失しました。

 これらのことから、AXLを高発現するがん細胞の場合は、EGFR阻害薬だけでは十分にYAPを不活性化できておらず、AXL阻害薬を併用することで初めてYAPを完全に不活性化できることが明らかになりました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究により、AXLがYAPを活性化させる新たな上流因子であること、そしてEGFRとYAPの活性化を介してEGFR阻害薬への耐性を付与する新しいメカニズムが明らかになりました。今後、AXLの高発現を確認あるいは予測した上で、EGFR阻害薬にAXL阻害薬、あるいはYAPそのものを標的とする薬剤を併用することで、EGFR阻害薬の耐性を防ぐ新たな治療戦略の開発が期待されます。同時に、新たなAXL阻害薬やYAP阻害薬の創薬開発が期待されます」