国内の頭頸部がん、年齢調整死亡率は減少傾向であると判明

2023/11/07

文:がん+編集部

 国内の頭頸部がん患者さんの死亡率の推移について詳細な解析が行われ、1999年~2019年の年齢調整死亡率は男女ともに減少していることが判明しました。

喫煙率低下、診断・治療法の進歩が寄与の可能性

 岡山大学は2023年9月29日、これまで十分に明らかにされていなかった日本における頭頸部がんの死亡率の傾向を明らかにしたことを発表しました。同大大学院医歯薬学総合研究科医薬品臨床評価学分野の東恩納司博士課程2年生、学術研究院医歯薬学域医療教育センター薬学教育部門健康情報科学分野の小山敏広准教授、大学病院薬剤部の濱野裕章講師、座間味義人教授らの研究グループによるものです。

 これまで日本における頭頸部がんの部位罹患率を評価した疫学研究はありましたが、調整していない人口当たりの死亡率である粗死亡率や、年齢構造の変化の影響を除くために調整した死亡率である年齢調整死亡率の経時的変化については十分に調査されていませんでした。

 研究グループは、まず1999年~2019年の21年間における国内の頭頸部がんによる粗死亡率の変化率について解析。その結果、国内の頭頸部がんによる粗死亡率は年々増加傾向であり、特に男性は女性のおよそ3倍であることが明らかになりました。

 次に、10万人あたりの年齢調整死亡率について解析したところ、男女ともに減少傾向であり、男性では8.20%から7.21%に、女性では1.96%から1.71%まで減少していました。特に男性では、2014年から2019年にかけて年齢調整死亡率が急激に低下していることが明らかとなり、2012年に保険適用となった分子標的薬による治療の寄与などが考えられました。

 さらに、年齢別に粗死亡率の傾向について検討したところ、35~74歳までの各年齢グループで粗死亡率の低下が観察され、特に45~54歳のグループで、最も粗死亡率が低下していることが判明。一般に、高齢者はがん化学療法に対する忍容性が低いことを考えると、年齢ごとの粗死亡率の低下は妥当な結果であると考えられました。また、今回明らかになった年齢調整死亡率の低下は、頭頸部がんのリスク因子の一つである喫煙率の経年的な減少や予防検診としての歯科受診率の増加による頭頸部がんの早期発見などによる可能性が考えられました。

 研究グループは社会的な意義として、次のように述べています。

 「本研究の成果から、日本における頭頸部がんの死亡率の経年変化が明らかとなりました。肺がんなどの5大がんと比較すると、頭頸部がんは早期発見を目的とした歯科検診などの積極的に実施されていません。頭頸部がんの一部はヒトパピローマウイルスがリスク因子であることが知られており、ワクチン接種など予防的プログラムにも有益な情報の一つであると考えています。このように頭頸部がんの死亡率の経年変化を知ることで、今後のスクリーニングなどの医療政策に関わる基礎的な科学的知見となり得るものと考えます」