がん幹細胞がマクロファージを老化させて免疫系から逃れるメカニズムを発見

2023/12/28

文:がん+編集部

 がん幹細胞がマクロファージを老化させることで免疫系から逃れ、がん組織を形成するメカニズムが発見されました。老化したマクロファージを標的とした新たな治療法の開発が期待されます。

老化したマクロファージを標的とした新たな治療法の開発に期待

 北海道大学は2023年11月15日、免疫がある状態での「がん組織の形成」には、がん幹細胞によるマクロファージの老化がカギとなることを発見したと発表しました。同大遺伝子病制御研究所の和田はるか准教授、清野研一郎教授らの研究グループによるものです。

 ヒトやマウスなどの多くの動物には、異常となった細胞を排除する免疫系が備わっていますが、免疫が機能している状態で、がん幹細胞ががん組織を形成させるメカニズムは、まだよくわかっていませんでした。研究グループは、免疫がある状態でがん組織を形成する真のがん幹細胞とはどのような細胞なのかを探究するため、動物に接種した時にがんを作るがん幹細胞と非がん幹細胞(免疫のある状態ではがんを作らない)を比較解析。すると、がん幹細胞はIL-6を介してマクロファージを細胞老化状態に誘導していることが明らかになりました。また、細胞老化状態のマクロファージは、免疫を抑制する因子を産出し、腫瘍組織内のT細胞が活性化できない状態となっていました。このメカニズムにより、がん幹細胞は免疫がある状態でも免疫の監視から逃れ、がん組織の形成を可能にしていることが示唆されました。

 さらに研究グループは、老化したマクロファージが生命機能の維持に重要な「NAD」を分解し減少させる老化関連分子CD38を高発現することを発見。がん幹細胞を移植したマウスに、NAD量を回復させる代謝改善薬「NMN」を投与したところ、がんの発生が減少することがわかりました。この結果から、NMNを用いる方法ががんの発生を阻止するために有効である可能性が示されました。

 研究グループは今後への期待として、次のように述べています。

 「がん幹細胞は周囲のマクロファージを老化させて免疫抑制環境を作り、T細胞活性を抑制することで、結果的に免疫がある状態でもがん細胞の増殖を可能としていることが明らかになりました。マクロファージの細胞老化を標的としたがん治療法はこれまでになく画期的であり、新たながん治療選択肢の一つとして開発されていくことが期待されます。一方、今回の研究は主にマウス脳腫瘍細胞を用いて行われたものであり、他のがんにおいても同様の現象が生じているのかを注意深く観察する必要があります。また今後実用化に向けてはヒトのがん組織を用いた実験や、ヒト免疫系を考慮した研究を慎重に重ねる必要があります」