サイトカイン遺伝子を入れた運搬体の直接投与で、がん細胞が自らを攻撃する免疫状態を作ることに成功

2024/01/29

文:がん+編集部

 サイトカイン遺伝子を導入した運搬体をがん細胞に直接投与することで、がん細胞自らに免疫細胞を活性化するサイトカインを作らせることに成功しました。

副作用の少ない、人獣共通がん治療方法開発への貢献に期待

 大阪公立大学は2023年11月30日、遺伝子導入で、がん細胞が自らを攻撃する免疫状態を作ることに成功したことを発表しました。同大大学院獣医学研究科の杉浦喜久弥教授、工学研究科の弓場英司准教授、児島千恵准教授、住友化学株式会社らの研究グループによるものです。

 自己の免疫力を用いてがんを治療する免疫療法の効果を高めるために、サイトカインを投与し腫瘍内の免疫細胞を活性化させる方法が研究されていますが、がん細胞の中に直接注入してもすぐに全身へ拡散してしまうため繰り返しの投与が必要となり、効果の低減や副作用のリスクが課題となっています。

 研究グループは、リポソームを成分とする運搬体を用いてサイトカイン遺伝子をがん細胞内部に運ぶ方法で遺伝子導入を行いました。具体的には、がん抗原を捕食した単球などを樹状細胞に変化させる「GM-CSF」、分化した樹状細胞を活性化させるとともに、免疫抑制性のマクロファージM2をM1に変える「CD40リガンド」、キラーT細胞やNK細胞を活性化する「IFNγ」の、3つのサイトカイン遺伝子をがん細胞中に送り込むことで、がん細胞にサイトカインを生成させ、自らを攻撃する免疫状態を作りました。これにより、効率的にがん免疫反応が誘導され、高いがん治療効果が実証されました。

 研究グループは期待される効果と・今後の展開として、次のように述べています。

 「今後は、本方法の安全性を確かめ、犬のがん治療への応用を目指します。犬は人と同様にがんを自然発症し、死因の5割を占めるため、安全で効果的ながん治療法を開発することは、獣医学において特に重要な課題です。また、犬のがん治療で効果を得ることができれば、人のがん治療にも重要な情報を提供できると考えられます」