禁酒や節酒、食道粘膜の前がん状態を改善し食道および頭頸部がんの発生を予防
2024/02/26
文:がん+編集部
禁酒や節酒が食道粘膜の前がん状態を改善し、食道および頭頸部がんの発生を予防することが判明しました。
禁酒・節酒を継続できた患者さんは、禁酒・節酒できなかった患者さんと比べて約8.5倍の頻度でヨード不染帯の程度を改善
京都大学は2023年12月22日、禁酒や節酒が食道粘膜の前がん状態を改善し、食道および頭頸部がんの発生予防につながるという研究結果を発表しました。同大医学研究科の武藤学教授、堅田親利特定准教授、岡山大学の堀圭介医員らの研究グループによるものです。
研究グループは、日本食道コホート試験「JEC試験」を通して、食道粘膜の前がん病変の発生には飲酒が強く関連し、食道や頭頸部の発がんリスクに強く関連することを報告してきました。
JEC試験は、食道扁平上皮がんの内視鏡切除後に禁酒・禁煙指導を実施し、6か月毎の上部消化管内視鏡検査と12か月毎の耳鼻咽喉科診察を継続しながら経過観察する前向きコホート研究です。この研究に登録された患者さん232人では、68.1%が禁酒・節酒に成功。食道粘膜の前がん病変(異型上皮)を「ヨード不染帯」として視認できるヨード色素内視鏡検査を実施した結果、禁酒・節酒に成功したうちの10.8%の患者さんで食道粘膜のヨード不染帯の程度の改善が確認されました。禁酒・節酒を継続した患者さんは禁酒・節酒できなかった患者さんに比べて約8.5倍の頻度でヨード不染帯の程度が改善し、さらに食道がん、頭頸部がんの発生割合を80%抑制しました。
この成果により、食道がん、頭頸部がんの多発発生は、禁酒・節酒をすることで前がん病変が減少し、多発性の発がんを抑制することを世界で初めて臨床的に明らかにするとともに、食道および頭頸部の発がん予防に活用されることが期待されます。
研究グループは、次のように述べています。
「本研究は、明らかな危険因子であるアルコール摂取を抑制することで食道内の前がん病変を減少させ、食道のみならず頭頸部の発がん抑制につながることを世界で初めて示したものであり、今後の予防医療への応用が期待されます。今回は、内視鏡治療が実施された早期の食道扁平上皮がん患者さんを対象としたものですが、飲酒は食道がんや頭頸部がんに罹患していない人にも明らかな危険因子であることから、禁酒・節酒が食道がんや頭頸部がんの抑制に効果を示す可能性を示したとも言えます。食道粘膜のヨード不染帯の程度は、発がんのリスクを予測するバイオマーカーとして報告してきましたが、予防効果の指標になることを示した点では画期的な発見であるといえます」