免疫システムから逃れるがん、治療するための新技術開発に成功

2024/03/25

文:がん+編集部

 免疫システムから逃れるがんを治療するための全く新しい技術が開発されました。転移したがんや従来の免疫療法が効かないがんに対しても有効な治療法として期待されます。

免疫チェックポイント阻害薬との併用や転移がんに対する有効性を動物実験で確認

 北海道大学は、難治性がんの治療へ応用が期待される新たながん免疫療法の技術開発に成功したことを発表しました。同大大学院医学研究院の小林弘一教授らの日米共同研究グループによるものです。

 細胞傷害性T細胞は、がん細胞に発現しているがん抗原を認識することで、正常細胞を攻撃せずにがん細胞のみ攻撃してがんの発症を抑制しています。がん細胞を細胞傷害性T細胞が認識するためには、がん抗原がMHCクラスIという分子と共に存在していることが必要不可欠です。しかし、多くのがんはMHCクラスIのレベルを低下させ、細胞傷害性T細胞から逃れようとします。

 研究グループは、がん細胞でMHCクラスI の量を制御するNLRC5遺伝子がメチル化という修飾を受けることで発現できなくなり、MHCクラスIの発現低下を引き起こしていることに注目。NLRC5の量を大幅に増加し、MHCクラスIの発現を増加させる新技術「TRED-Iシステム」を開発しました。

 TRED-Iシステムは、NLRC5遺伝子のみをターゲットにして、メチル化修飾の正常化と遺伝子発現を誘導可能にしたシステムで、MHCクラスIの発現が増加し、細胞傷害性T細胞が、がん抗原を認識してがん細胞を攻撃するようになります。動物実験では、TRED-Iシステムによるがん治療効果が認められた上、免疫チェックポイント阻害薬との併用の治療有用性も確認されました。また、TRED-Iシステムは免疫活性化を通して、このシステムを導入したがん原発巣から離れたがんに対しても治療効果を示すため、転移したがんに対する有効な治療法としての応用が期待されます。

 研究グループは今後への期待として、次のように述べています。

 「今まで、MHCクラスI分子を特異的に上昇させる方法はありませんでした。TRED-Iシステムの開発により、今後、新しい免疫療法への応用が期待されます。TRED-Iシステム単独でのがん治療に加え、従来の免疫療法との併用も大きな治療効果をもたらす可能性があります」