RAS野生型大腸がんに対する抗EGFR抗体薬の最適な投与対象を血中循環腫瘍DNAの解析により特定

2024/04/01

文:がん+編集部

 抗EGFR抗体薬が有効なRAS野生型大腸がん患者さんを、血液検査による血中循環腫瘍DNAの解析で特定できる可能性が示されました。

遺伝子異常がない患者さんの全生存期間(中央値)、パニツムマブ40.7か月/ベバシズマブ34.4か月

 国立がん研究センターは2024年2月12日、RAS野生型大腸がんに対する抗EGFR抗体薬の最適な投与対象を血中循環腫瘍DNAの解析により特定できる可能性を示す研究成果を発表しました。同がん研究センター東病院の設楽紘平消化管内科長、土原一哉トランスレーショナルインフォマティクス分野長、吉野孝之副院長、国立病院機構災害医療センターの植竹宏之臨床研究部長らの研究グループによるものです。

 これまで、RAS遺伝子野生型大腸がんの初回治療として、原発巣が左側および全体のいずれの患者さんでも、「mFOLFOX6+抗VEGF抗体薬(ベバシズマブ)併用療法」は、「mFOLFOX6+抗EGFR抗体薬(パニツムマブ)」併用療法と比較して、全生存期間を統計学的に有意に延長することが、日本国内で実施されたPARADIGM試験で明らかになっていました。しかし、探索的な解析では原発巣が右側の患者さんでは、抗VEGF抗体薬と抗EGFR抗体薬の有効性は同程度でした。原発巣の占拠部位による治療効果の違いは、抗EGFR抗体薬の治療耐性に関連する遺伝子の異常に起因していると考えられています。

 研究グループは、抗EGFR抗体薬による治療がより有効な可能性が高いRAS遺伝子野生型大腸がん患者さんを特定するため、PARADIGM試験に参加された患者さんから採取した血液で血中循環腫瘍DNAの解析を実施。事前設定した抗EGFR抗体薬の治療耐性との関連が報告されている10個(KRAS、NRAS、BRAF V600E、PTEN、EGFR細胞外ドメインの変異、HER2、MET増幅、ALK、RET、NTRK1融合)の遺伝子異常を認めない患者さんを対象に、ベバシズマブとパニツムマブの有効性を比較しました。

 その結果、遺伝子異常がない患者さんの全生存期間の中央値は、パニツムマブ40.7か月、ベバシズマブ34.4か月でした。また、原発巣の占拠部位別の解析の結果、左側および右側いずれの患者さんでも、遺伝子異常がない患者さんでは、パニツムマブで良好な結果が示されましたが、何らかの遺伝子異常がある患者さんでは、パニツムマブの有効性はベバシズマブと比較して同程度もしくはやや劣る結果でした。

 これらのことから、血中循環腫瘍DNA解析を用いることで、原発巣の占拠部位による選択よりも適切に抗EGFR抗体薬が有効な患者さんを特定できる可能性が示されました。

 研究グループは展望として、次のように述べています。

 「本研究の結果、RAS野生型大腸がんの初回治療の分子標的治療薬選択において、リキッドバイオプシー(血液)の血中循環腫瘍DNA解析による治療耐性関連遺伝子異常に基づいた患者さんの選択は、原発巣の占拠部位による選択と比較して抗EGFR抗体薬が有効な患者さん集団をより適切に特定することができる可能性が示されました」