がん細胞上のHER2タンパク質だけに結合する抗体の取得とメカニズムの解明に成功

2024/04/30

文:がん+編集部

 がん細胞上のHER2タンパク質だけに結合する抗体が取得され、その抗体ががん細胞のみに結合するメカニズムが解明されました。

HER2タンパク質を発現しているがん細胞のみを攻撃する抗体医薬品の開発に期待

 大阪大学は2024年3月11日、がん細胞だけに結合して正常細胞には全く反応しない抗体の取得に成功し、さらにその細胞選択性の理由を結晶構造解析などにより明らかにしたことを発表しました。この研究は、同大蛋白質研究所の有森貴夫准教授、東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授らの研究グループによるものです。

 抗HER2抗体は、乳がんや胃がんに対する治療薬として承認されていますが、HER2タンパク質は正常細胞にも発現しているため、従来の抗HER2抗体薬では、正常細胞まで攻撃してしまうリスクがありました。

 研究グループは、数百種のHER2に対する抗体を作り出し、それらの抗体の反応性などを調べることで、がん細胞上のHER2タンパク質だけに結合する抗体「H2Mab-214」を取得することに成功。その結晶構造の解析や細胞を用いた結合解析を行ったところ、がん細胞上のHER2タンパク質は部分的に立体構造が乱れていることを突き止めました。この立体構造の乱れが、がん細胞上のHER2タンパク質の特徴となり、新たな目印となることを明らかにしました。H2Mab214はそこを認識するため、がん細胞のみに結合できることがわかりました。さらに、マウスを用いた実験では、このH2Mab-214が高い抗腫瘍活性を持つことも示されました。

 研究グループは本研究成果の意義として、次のように述べています。

 「近年のがん治療においては、抗体をそのままの形で利用するだけでなく、抗体に抗がん剤を付加させた抗体薬物複合体や、抗体の一部分を組み込んだ特殊なタンパク質を免疫細胞(T細胞)上に作らせてがん細胞を攻撃するCAR-T細胞療法など、抗体を利用して抗がん剤や免疫細胞をがん細胞に連れて来るような治療法の開発が盛んに行われています。このような殺細胞能力の高い治療法においては、抗体のがん細胞選択性がますます重要になります。通常、膜タンパク質は正しく折りたたまれたものだけが細胞表面に現れるように細胞内の品質管理機構によって制御されていますが、がん細胞においては品質管理機構に異常が生じることが知られており、さまざまな分子が構造の乱れを持ったまま細胞表面に現れている可能性があります。そのような立体構造の乱れに着目することで、新たながん特異的抗体の開発が可能になることが期待されます」