日本人の腎細胞がん、7割に未知の発がん要因を発見
2024/05/30
文:がん+編集部
日本を含む11か国の国際共同研究による腎細胞がんの全ゲノム解析の結果、日本人の腎細胞がんの7割に、他国ではほとんど見られない未知の発がん要因が存在することが判明しました。
SBS12の誘発要因、外因性の発がん物質である可能性高い
国立がん研究センターは2024年5月14日、日本を含む11か国の国際共同研究により過去最大962症例の腎細胞がん全ゲノム解析の結果を発表しました。
本研究は、英国王立がん研究基金並びに米国がん研究所によって設立されたCancer Grand Challengeが進める国際共同研究「Mutographs project」です。世界のさまざまな地域における悪性腫瘍の全ゲノム解析を行うことで、人種や生活習慣の異なる地域ごとに発症頻度が異なる原因を解明し、地球規模でがんの新たな予防戦略を進めることを目的としており、腎細胞がんの解析は食道扁平上皮がんに次いで実施されました。
淡明細胞型腎細胞がん962症例のサンプルを、発症頻度の異なる11か国から収集して全ゲノム解析を行ったところ、日本人の腎細胞がんの7割に他国にはほとんど見られない、特徴的な変異シグネチャー「SBS12」が検出され、未知の発がん要因が存在することが判明。SBS12を誘発する要因は現在のところ不明ですが、遺伝子変異パターンから外因性の発がん物質(環境要因)である可能性が高いことが示唆されました。
また、腎細胞がんの危険因子として知られている喫煙・肥満・高血圧・糖尿病について、喫煙は遺伝子の変異に直接作用していること、反対に肥満・高血圧・糖尿病は、遺伝子変異を直接的に誘発しないことが示唆されました。
同研究センターは展望として、次のように述べています。
「本研究は、食道扁平上皮がんに次いで行われた全ゲノム解析を用いた国際的な大規模がん疫学研究であり、各国の発がん分子機構の違いが明らかになり、疫学研究における全ゲノム解析の有用性を改めて示しました。特に日本症例から特徴的な変異パターンが発見されました。原因となる物質は現在のところ分かっていませんが、その解明に向けて多施設共同研究によって国内の各地域からサンプルを集め、全ゲノム解析を行う研究計画を進めています。今後の研究でその原因物質やこの変異パターンによって誘発されるドライバー異常が明らかになれば、日本における淡明細胞型腎細胞がんの新たな予防法や治療法の開発が期待されます」