がん悪液質の診断基準の違いと有病率・全生存期間との関連を調べた研究結果を発表

2024/10/10

文:がん+編集部

 がん患者さんの悪液質の診断基準の違いと有病率・全生存期間との関連を調べた研究結果が発表されました。がん悪液質の診断基準は、有病率や全生存期間に影響している可能性が示唆されました。

がん悪液質の有病率や全生存期間、用いられた診断基準により異なることが判明

 早稲田大学は2024年9月2日、がん悪液質の診断基準の違いと有病率・全生存期間との関連を調べた研究結果を発表しました。同大スポーツ科学学術院の渡邉大輝助教、大学院総合医理工学研究科医学系専攻医学分野博士課程3年の髙岡友哉氏(兼 同大医学部附属病院管理栄養士)、北海道文教大学の八重樫昭徳講師らの研究グループによるものです。

 がん悪液質は、「通常の栄養サポートでは完全には改善せず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。しかし、悪液質の診断基準は複数存在しており、その違いが有病率や全生存期間に影響するかどうかは不明でした。

 研究グループは、がん患者さんを対象に悪液質を診断した全ての研究論文を系統的に収集し、診断基準と有病率の関連、診断基準と全生存期間の関連を明らかにするためにシステマティックレビュー(特定のテーマに関する既存の研究論文を体系的に収集・分析・評価する手法)とメタ解析を実施。

 診断基準と有病率の解析の結果、がん患者さん全体のうち悪液質の人は33.0%でしたが、診断基準により有病率は異なっていることがわかりました(13.9~56.5%)。

 また、診断基準と全生存期間の解析結果では、がん患者さんのうち悪液質である患者さんはそうでない患者さんよりも明らかに死亡リスクが高いことがわかりました。さらに、悪液質の代表的な基準「Fearon, 2011基準」で診断された患者グループは、その他の基準で悪液質と診断された患者グループよりも明らかに全生存期間が短いことが示されました。

 これらのことから、がん患者さんにおいて、悪液質の診断基準は有病率と全生存期間に影響する可能性が示されました。悪液質に対する研究や臨床現場での治療介入を検討する場合、診断基準をよく検討してどの診断基準を使用するかを決める必要があることが示唆されました。

 研究グループは波及効果や社会的影響として、次のように述べています。

 「がん患者さんは世界中で増えており、今後ますます悪液質と診断されるがん患者さんも増える可能性が高く、その治療戦略が重要になると考えられます。我々の調査結果により、がん患者さんにおいて悪液質の有無だけでなく、悪液質の診断基準の違いも全生存期間に影響することがわかりました。このことはがん患者の悪液質の治療法の開発や結果の統合(治療ガイドラインの作成など)をする上で大きな障壁になると思われます。診断基準の違いによる影響を整理することで、大規模な集団から悪液質の可能性がある人を選別するための基準や死亡リスクが高い悪液質の者を特定して治療介入につなげるための基準など、使い分けができるようになるでしょう」