ステージIIIの非小細胞肺がんに対する新たな免疫チェックポイント阻害薬が承認

2018/07/05

文:がん+編集部

 ステージIIIの非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法として、新たな免疫チェックポイント阻害薬が承認されました。

薬の価格が決まるまでは条件付きで無償提供も

 アストラゼネカ株式会社は7月2日、免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)について、切除不能な局所進行(ステージIII)の非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法を効能・効果として、日本国内での製造販売承認を取得したことを発表しました。

 がん細胞の表面に発現する「PD-L1」とT細胞の表面にある「PD-1」が結合することで、T細胞の攻撃が抑制されてしまいます。デュルバルマブは、PD-L1とPD-1が結合する前に結合を阻害することで、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬です。

 放射線治療は、がんを直接攻撃し腫瘍量を減少させるだけではなく、破壊されたがん細胞のかけらががんの特異的な抗原となることで、がん細胞を攻撃する特異的T細胞を活性化することがわかってきています。そのため、放射線治療の後にデュルバルマブを用いることで、効率的に抗腫瘍免疫応答を回復し、がんの排除を促すことが期待できるそうです。

 ステージIIIの非小細胞肺がんで手術ができない場合、同時化学放射線療法を行ったとしても、5年以内に約89%の患者さんが再発・病勢進行しています。現在の標準治療は、化学放射線療法後の無治療経過観察に留まることから、新たな治療が強く望まれています。

 今回の承認は第3相臨床試験PACIFIC試験での、無増悪生存期間(PFS)※1の良好な結果に基づくものです。また、全生存期間(OS)※2の中間解析では、プラセボ投与の患者さんと比較して、デュルバルマブ投与の患者さんで有意な延長が示されました。有害事象の発現率と重症度は、デュルバルマブ投与の患者さんとプラセボ投与の患者さんで同様だったとしています。

 近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授の中川和彦先生は、「同時化学放射線療法(CRT)後のステージIII非小細胞肺がんを対象としたPACIFIC試験において、イミフィンジが延長した約11か月の無増悪生存期間と、今後の詳細発表が待たれる、統計学的に有意な全生存期間の延長は、根治の可能性を広げる新たな標準治療の登場を示唆するものです」とコメントしています。

 アストラゼネカは、厚生労働省の定める「保険外併用療養費制度」のもと、ステージIIIの非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法として、デュルバルマブの無償提供を実施します。無償提供は、デュルバルマブ開発治験を実施した医療機関などの医療機関限定で、今回承認された効能・効果、用法・用量に従ってのみ使用することや、無償提供期間中にアストラゼネカが実施する各種安全対策に協力することを条件に実施するとしています。無償提供は、薬価収載前日まで行われます。

※1 奏効例(完全または30%の部分消失)で治療中にがんが進行せず安定した状態の期間のことです。 ※2 患者さんの亡くなった原因ががんによるかどうかは関係なく、生存していた期間のことです。