ステージIIIの非小細胞肺がん 正確な評価と診断に伴う手術と術前術後の化学療法

2018.6 取材・文:町口 充

 早期の肺がんでは自覚症状が少なく、進行してから発見されることも多くあります。非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子などに対する分子標的薬が開発されており、手術ができない場合は薬物療法が行われますが、手術が可能なら、手術で完治を目指すのが基本です。肺がん全体の約8割を占める非小細胞肺がんでは、ステージI~IIIAの一部までは手術で完治を目指す治療方針がとられます。さらに術後は、がんの大きさが2cmを超えるような場合などでは、再発を防ぐ目的で化学療法が行われます。また、術前に化学療法あるいは化学放射線療法が行われることもあります。これらの治療選択は、がんの進み具合によって異なるため、特に病態が多岐にわたるステージIIIAを含めて、正確な評価・診断にもとづく判断が求められています。

2cmを超えるがんは、術後化学療法

 非小細胞肺がんの手術をして、リンパ節や他臓器への転移がなく、がんの大きさが2cm以下だったステージIの患者さんについては、基本的に手術のみで完治を目指します。ただし、がんの大きさが2cmを超える場合は、ステージIであっても術後化学療法を行います。この場合は経口薬による化学療法が基本です。一方所属リンパ節への転移が認められるステージIIからIIIAでは、シスプラチンなどのプラチナ系薬剤を中心とした術後化学療法が行われます(図1参照)。

 ステージIでも、がんの大きさが2cmを超えている場合や、ステージIIやIIIでは手術でがんを取り除いても目に見えない微小ながんが残っている可能性があり、もう片方の肺や、脳、骨などへの転移することがあります。術後化学療法は、再発や転移を防ぐために行われます。臨床試験の結果からも、肺がんの術後に全身療法である化学療法を行ったほうが、経過観察をするだけよりも再発や遠隔転移を抑えられ、生存期間が有意に延長することが明らかになっています。

図1 非小細胞肺がんのステージ別治療選択

ステージIA、IB
ステージIA、IB
標準手術可能標準手術不能
標準手術縮小手術放射線単独療法

ステージIIA、IIB
ステージIIA、IIB
手術可能手術不能
手術
・肺葉以上の切除
・リンパ節郭清
・T3臓器合併切除
放射線単独療法
化学放射線療法

ステージIIB、ステージIIIA
ステージIIB(肺尖部胸壁浸潤がん)
ステージIIIA(T3N1M0、T4N0-1M0
手術可能手術不能
術前治療
手術
・肺葉以上の切除
・リンパ節郭清
・T3、T4臓器合併切除
ステージIIIB、IIICの治療に準ずる

ステージIIIA(T1-2N2)ステージIIIB(T3-4N2)
ステージIIIA(T1-2N2)
ステージIIIB(T3-4N2)
±術前治療ステージIIIB、IIICの治療に準ずる
手術
・肺葉以上の切除
・リンパ節郭清
・T3、T4臓器合併切除

ステージIIIB、ステージIIIC
ステージIIIB、ステージIIIC
根治照射可能根治照射不能
化学療法の併用可能化学療法の併用不能
化学放射線療法放射線単独療法ステージIVの1次治療に準ずる

出典:EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2017年版より

ステージI(大きさ2cm以上)の術後化学療法

 ステージIの患者さんでがんの大きさが2cm以上の場合は、経口薬のテガフール・ウラシル(製品名:UFT〔ユーエフティ〕)を2年間服用します(表1参照)。

 ステージIIからステージIIIAでは、シスプラチンシスプラチンなどのプラチナ系薬剤と抗がん剤1薬を併用した化学療法を行います。一般的には、シスプラチン+ビノレルビン(製品名:ナベルビン)の併用療法が多いですが、施設によって併用する薬は異なり、シスプラチン+テガフール・ギメラシル・オテラシル(製品名:TS-1〔ティーエスワン〕)の併用療法を行う施設もあります。

 しかし、術後化学療法を行うにあたっては、あくまで正確で慎重な判断が必要です。なぜなら、手術で完全切除が行われていれば、がんが治っていることも十分考えられるからです。また、術後の再発を抗がん薬によって抑えられたとしても、それによる延命効果よりも抗がん剤の副作用によるデメリットのほうが強く出る可能性もあります。

 日本肺癌学会がまとめた「肺癌診療ガイドライン2017」によれば、腺がんのステージIの完全切除例では、手術単独でも74%が再発していないため、術後化学療法の安全性を十分考慮したうえで行うべきだとしています。

 ステージII~IIIAで推奨されている術後化学療法は、すべて国外の臨床試験のデータをもとにしているシスプラチン併用化学療法です(一部の試験は日本の施設も参加)。そのため、必ずしも日本の肺がんや手術技術に適合しているとはいえません。また、エビデンスの根拠となった臨床試験は全身状態が良好な患者さんを対象に実施されており、それでも副作用による治療関連死は約1%の症例に認められています。この点では手術死亡率は約0.5%であり、手術のほうが安全とさえいえます。

 このように、患者さんの年齢や全身状態も考慮に入れ、メリット・デメリットを十分に理解したうえで術後化学療法を行うかどうかを選択すべきです。術後化学療法は「絶対にやらなければいけない」のではなく「やることが望ましい」という考えのもとに判断されるべきでしょう。

表1 非小細胞肺がんの術後化学療法

テガフール・ウラシル(UFT)療法内服1日2~3回に分けて、2年間服用
シスプラチン+ビノレルビン療法静脈点滴1日目にシスプラチンとビノレルビンを、8日目にビノレルビンを点滴。1週間休薬。3週間1サイクルを4サイクル行う

ステージI、IIの術前化学療法と術後化学療法

 最近、化学療法を行って肺がんを小さくしてから手術する「術前化学療法+手術」を行う施設が増えています。手術が可能な非小細胞肺がんに対して術前化学療法の有効性を検討した複数の臨床試験結果を解析(メタ解析という)したところ、「手術単独群」と「術前化学療法+手術群」との比較では、後者のほうが全生存期間(OS)を有意に延長することがわかり、術前化学療法の有効性が確かめられたからです。

 投与法についての臨床試験では、ステージI~IIに対する術前化学療法として、「ドセタキセル(製品名:タキソテール)単剤」と「シスプラチン+ドセタキセル併用療法」が比較され、後者のほうの成績が有意に高いとの結果が出ています。

 さらに、術前化学療法と術後化学療法とでは、どちらの有効性が高いかを比較したメタ解析では、両者の有効性は同等であると結論されています。その点について「肺癌診療ガイドライン2017」は、エビデンスの量、質ともに術後化学療法が優っているとしています。さらに、術後化学療法のほうが治療の対象や方法が明確なため、実地臨床ではステージI~IIまでの早期のがんにはまず手術を行い、病理診断にしたがって化学療法の適応を検討することが多いと示しています。

ステージIIIでは手術可能かの見極めが大切

 治療選択の判断が難しいのが、局所進行期とされるステージIIIです。

 ステージIIIは、がんの大きさ、リンパ節への転移の状態でさらにA、B、Cの3つに分類されます。同じステージIIIAでも8つ、ステージIIIBでは7つ、ステージIIICは2つのパターンがあります。

 一般的には、ステージIIIAなら手術は可能で、放射線療法や化学療法のいずれかを組み合わせた治療が行われます。ステージIIIB、IIICでは手術の適応とはならず、化学療法か放射線療法、あるいは両者を併用する化学放射線療法が選択肢となります。

 手術が可能なステージIIIAでは、可能性は低いですが根治を目指せ、5年生存率は約30~40%です。化学放射線療法を行った場合の5年生存率は、約15~20%程度です。

肺がんステージIIIA リンパ節への転移はN0で、T分類はT4。
リンパ節への転移はN1で、T分類はT3、T4のいずれか。
リンパ節への転移はN2で、T分類はT1a、T1b、T1c、T2a、T2bのいずれか。

肺がんステージIIIB リンパ節への転移はN2で、T分類はT3、T4のいずれか。
リンパ節への転移はN3で、T分類はT1a、T1b、T1c、T2a、T2bのいずれか。

肺がんステージIIIC リンパ節への転移はN3で、T分類はT3、T4のいずれか。

表2 肺がんのTNM分類によるステージ

N0N1N2N3M1aM1bM1c
T1miIA1
T1aIA1IIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T1bIA2IIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T1cIA3IIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T2aIBIIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T2bIIAIIBIIIAIIIBIVAIVAIVB
T3IIBIIIAIIIBIIICIVAIVAIVB
T4IIIAIIIAIIIBIIICIVAIVAIVB

出典:日本肺癌学会,編:臨床・病理 肺癌取扱い規約 2017年1月 第8版,金原出版.より作成

表3 肺がんのT分類

Tis上皮内がん、肺野に腫瘍がある場合は充実成分※1の大きさが0cm、かつ病変の大きさ※2が3cm以下
T1充実成分の大きさが3cm以下、かつ肺または臓側胸膜におおわれ、葉気管支より中枢への浸潤が気管支鏡上認められない(すなわち主気管支に及んでいない)
T1mi微少浸潤性腺がんで充実成分の大きさが0.5cm以下、かつ病変の大きさが3cm以下
T1a充実成分の大きさが1cm以下で、TisやT1miには相当しない
T1b充実成分の大きさが1cmを超え2cm以下
T1c充実成分の大きさが2cmを超え3cm以下
T2充実成分の大きさが3cmを超え5cm以下
または、充実成分の大きさが3cm以下でも以下のいずれかであるもの
・主気管支に及ぶが気管分岐部には及ばない
・臓側胸膜に浸潤がある
・肺門まで連続する部分的または片側全体の無気肺か閉塞性肺炎がある
T2a充実成分の大きさが3cmを超え4cm以下
T2b充実成分の大きさが4cmを超え5cm以下
T3充実成分の大きさが5cmを超え7cm以下
または、充実成分の大きさが5cm以下でも以下のいずれかであるもの
・臓側胸膜、胸壁、横隔神経、心膜のいずれかに直接浸潤がある
・同一の肺葉内で離れたところに腫瘍がある
T4充実成分の大きさが7cmを超える
または、大きさを問わず横隔膜、縦隔、心臓、大血管、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部への浸潤がある
または、同側の異なった肺葉内で離れたところに腫瘍がある

出典:日本肺癌学会,編:臨床・病理 肺癌取扱い規約 2017年1月 第8版,金原出版.より作成

表4 肺がんのN分類とM分類

リンパ節転移
N0胸腔内や鎖骨の上あたりにあるリンパ節への転移なし
N1原発腫瘍と同側の気管支周囲、肺門、リンパ節への転移あり
N2原発腫瘍と同側の縦隔、気管分枝下リンパ節への転移あり
N3原発腫瘍と反対側の縦隔、肺門、あるいは鎖骨上あたりのリンパ節への転移あり
遠隔転移
M1a原発腫瘍と反対側の離れた個所に腫瘍あり、胸膜か心膜への転移、悪性胸水、悪性心のう水あり
M1b肺以外の1つの臓器、または多臓器への多発遠隔転移あり
M1c肺以外の2つの臓器に単発の遠隔転移あり

出典:日本肺癌学会,編:臨床・病理 肺癌取扱い規約 2017年1月 第8版,金原出版.より作成

ステージIIIは術後のステージ変更も多く、治療選択が難しい

 手術可能なステージIIIAのがんに対しては、術前化学療法は生存率を改善する有効な治療とされています。しかし、臨床試験の結果では、術前に化学療法あるいは化学放射線療法を行ってから手術した場合について、がんを縮小させる効果は示したものの、生存率の改善には寄与しなかったとの報告もあります。それでも、術前に化学療法か化学放射線療法を行ってから、片肺を全摘する手術を受けた場合には合併症による死亡率が高かったのに対して、肺の一部を残す肺葉切除にとどまった手術に関しては生存期間を延長する有用性が示されています。

 一方で考慮したいのは、術後のステージ変更が多いことです。例えば、画像検査の結果、がんの大きさが3cm以下でもリンパ節への転移によって、ステージIIIと診断されたものもあります。しかし、手術して取ったリンパ節の組織を調べたら、ステージIになったという例は少なくなく、術前にステージIIIと診断されたがんの半数はステージIIIではなかったというデータもあります。また、ステージIIIAでN2のがんの切除後の5年生存率は施設によって違いがあり、5%から60%と、かなりの差があることも明らかになっています。

 こうしたこともあり、ステージIIIAのがんに対して「手術単独」か「化学療法、または化学放射線療法+手術」のどちらを行うべきかについては、医師の間でも議論のあるところです。化学療法や放射線化学療法を行ったのちに手術するのは患者さんの負担が大きいため、まず手術して病期を確かめたうえで次の治療を決めたほうがよいとの意見がある一方で、高齢の患者さんでは手術の負担のほうが大きいので、手術の前に化学療法を行ったほうがよいとする意見、さらには手術をせずに化学放射線療法のみでもよいとする意見もあり、定まっていません。

 また、全摘ではなく肺の一部を取る肺葉切除で済むようならステージIIIAの患者さんに対してはまず手術を行うのがよいのではないかとの意見もあります。

 いずれにしろ、ステージIIIは範囲が広いため治療の選択肢は多岐にわたり、個々の患者さんの状況によって判断は異なるため、呼吸器外科や呼吸器内科、腫瘍内科、場合によっては放射線科なども含め、各専門医が連携したうえでの治療方針の検討が欠かせません。判断に迷った場合はセカンドオピニオンを考えることも必要でしょう。

手術不可能の肺がんで手術を可能にする2つの手術法

 コンバーション手術は、手術ができないと判断された進行がんに対して、化学療法を行ってがんを小さくして、画像診断などで手術ができるとわかった場合に手術でがんを切除する治療です。似たような治療に術前化学療法がありますが、これはあくまで手術可能ながんに対する治療法で、手術の効果を高めるのが目的です。

 ステージIIIAの一部とIIIB、IVの肺がんは、手術でがんを取り除くのは不可能とされ、化学療法か放射線療法、あるいはその併用療法しか治療法はありませんが、化学療法と手術を組み合わせたコンバージョン手術が注目されるようになっています。

 コンバージョン手術と似たような方法にサルベージ手術があります。これは、手術ができないと判断された進行肺がんに化学療法や放射線療法を行った結果、治療が奏効して手術可能となって行われる手術のことです。このサルベージ手術とは異なり、最初から手術を視野にいれて開始する前向きで積極的な治療がコンバージョン手術です。「サルベージ」は「救済」の意味ですが、「コンバージョン」は「変更、転換」の意味です。

 ただし、コンバージョン手術は難易度の高い手術であり、どの施設でもできるものではないため、実績があり、体制の整った施設を選ぶ必要があります。

 このような切除不能の肺がんに対して手術を視野に入れて化学療法を行えるようになったのは、化学療法の著しい進歩の賜物に違いありません。新しい薬が次々と登場し、がんを小さくできるようになったからです。

ステージIIIで使える新たな免疫チェックポイント阻害薬

 現在、期待されているのが免疫チェックポイント阻害薬です。すでに、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんを対象にニボルマブ(製品名:オプジーボ)、ペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)とアテゾロリズマブ(製品名:テセントリク)が承認され、使えるようになっていますが、同じ免疫チェックポイント阻害薬で、ニボルマブなどとは作用が異なるデュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)が近く承認される見通しとなっています。すでに、切除不能のステージIII非小細胞肺がんの根治的化学放射線療法後の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)では承認されました。

 がん細胞は、自分の細胞表面に発現するPD-L1というタンパク質が、免疫の担い手であるT細胞の表面に発現するPD-1受容体と結合することにより、T細胞からの攻撃を抑制してしまいます。免疫チェックポイント阻害薬はこの結合を阻止することでT細胞の攻撃力を復活させるのですが、ニボルマブやペムブロリズマブがPD-1を標的にするのに対して、デュルバルマブやアテゾロリズマブは、PD-L1を標的にします。

 デュルバルマブは、腫瘍の縮小効果が高いため、がんが縮小し安全に切除できる症例では、コンバージョン手術が検討される可能性があります。もちろん、対象となる患者さんのすべてに有効というわけではなく過剰な期待は禁物ですが、新たな薬の登場は治療の選択肢が増える利点もあり、早期の承認が待たれます。

プロフィール
鈴木健司(すずき・けんじ)

1990年 防衛医科大学校卒業
1991年 防衛医科大学校臨床研修医
1993年 US navy潜水医学課程修了
1995年 国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院非常勤医師
1997年 国立がんセンター東病院がん専門修練医
1999年 国立がんセンター中央病院呼吸器外科医員
2007年 国立がん研究センター中央病院呼吸器外科医長
2008年 順天堂大学医学部呼吸器外科学講座教授
2011年 順天堂大学医学部呼吸器外科学講座主任教授

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