胃がん細胞の増殖メカニズムを解明 新しい治療法の開発に期待

2018/08/13

文:がん+編集部

 胃がん細胞の異常な増殖メカニズムが解明されました。今後胃がん根治を目指した治療の新しい突破口となることが期待されます。

胃がんの多くが「Wnt」と呼ばれる増殖因子に依存

大腸がん
画像はリリースより

  慶應義塾大学医学部内科学(消化器)教室の佐藤俊朗准教授らの研究グループは、8月10日、胃がん細胞の増殖メカニズムを解明したと発表しました。

 多くのがんでは、遺伝子変異による異常は細胞増殖によって致死的な状態になることが分かっています。正常な細胞に特定の遺伝子変異が起こることで増殖スイッチが壊れ、勝手に細胞が増殖するがん特有の状態に陥ります。胃がんの一部の細胞では、HER2という遺伝子変異が異常な増殖を起こす原因となることがわかっており、HER2に対する抗体薬としてトラスズマブ(製品名:ハーセプチン)が治療薬として使われています。

 胃がん組織は、がん以外の細胞(間質細胞・免疫細胞・正常胃細胞など)を多く含むため、従来の細胞培養技術を用いた場合、がん細胞のみを対象とした遺伝子変異解析が行えず、遺伝子変異がどのように胃がんの異常な細胞増殖につながるかを解明することは困難でしたが、研究グループが開発した新しい培養技術を使いことで、胃がん組織からがん細胞のみを採取して培養することに成功したそうです。

 研究グループは、新しい培養技術によって、36人の患者さんの胃がん細胞を体外で培養し、胃がんの細胞増殖異常につながる遺伝子異常の調査を行ったそうです。胃は2つの増殖因子が協調することで細胞増殖を制御していますが、多くの胃がんはそのうちの1つ(R-spondin)がなくても増殖できる能力を獲得していることを発見しました。さらに、残ったもう1つの増殖因子(Wnt)は増殖に必要であることも発見。このWntを抑制する標的薬ができれば、胃がんの増殖を抑制することを示しました。

 本研究は、胃がんの多くがWntと呼ばれる増殖因子に依存していることを初めて明らかにしており、今後胃がん根治を目指した治療の新しい突破口となることが期待されます。