がん患者支援アプリ「CAN.」を通じ、患者さんにあわせた“正しい情報”を届けたい

2018/10/24

渥美隆之さん
認定NPO法人がんサポートコミュニティー 理事長 渥美隆之さん

2018.10 取材・文 村上和巳

 認定NPO法人がんサポートコミュニティーは、日本赤十字社医療センター外科部長・日本赤十字看護大学教授を歴任し、自身もがん患者であった故・竹中文良博士が、がん患者さんを心理社会的側面からサポートすることを目的に2001年に設立。17年にわたり、がん患者支援活動を続けています。

 同法人は今回、がん患者支援アプリ「CAN.」をリリースしました。アプリ名の「CAN.」には、たとえがんになっても自分らしく生きることが「できる。(CAN.)」という意味が込められています。今回は、アプリのリリースの経緯やその特徴、同法人の活動全般について、理事長の渥美隆之さんにお話をうかがいました。

正しい情報とがん患者さんをつなげる役割

――アプリ「CAN.」をリリースした背景について教えてください。

CAN

がんサポートコミュニティー公式Facebookより

 今や、多くのがん患者さんが、インターネットでがんに関する情報を検索することが当たり前の時代となりました。以前より改善されてきましたが、キーワードによっては未だに検索結果の上位にエビデンスの不確かなサイトが表示されることもあります。これはがんに限らず、医療情報全般に対して共通している問題です。私も、この問題に強い危機感を持っています。

 がん患者さんには、切羽詰まった状態のなかで、正しい情報にピンポイントでたどり着きたいという切実な思いがあります。今回、アプリをリリースした背景には、さまざまな情報が溢れる“情報の海”から、「患者さんの求める情報」かつ「正しい情報」にたどりつけるように、患者さんをサポートしたいという思いがありました。

――具体的にはどのような情報を提供していますか?

 アプリ「CAN.」では、がんに関連する学会、研究機関、医療機関、製薬企業などの団体の情報を中心に発信しており、私たちが信頼できると判断した情報を発信するウェブサイトと、がん患者さんをつなげるプラットフォームの役割を担っています。

 日本では、国立がん研究センターを中心に、非常に充実したがん情報サイトを運営している事例もありますが、それぞれのサイトで情報の濃淡があると感じています。こうしたことを補完するためにも、数多くの正しい情報を提供しているウェブサイトと患者さんをつなげられるように、いま準備を進めています。

 現在、アプリ内で発信している情報は、がん種、発信団体などで分類しています。今後、今以上に情報が増えていった際には、患者さんがより速やかに求める情報に行きつけるように、今以上に細かな分類を設ける予定です。その他、医療従事者や支援者から患者さんに向けたメッセージや各種イベント情報なども提供しており、今後は、がん体験者の声などの配信も考えています。

――アプリを利用することでどのようなメリットがありますか?

 アプリをダウンロードし会員登録までしていただくと、がん種などの個別情報に基づき、患者さんの求める最新のがん情報をプッシュ通知で受け取ることができます。もちろん、会員登録をしなくてもアプリの利用は可能です。ただ、自分の欲しい情報をいち早くキャッチするためにも、会員登録をして利用していただくことをおすすめします。

――AndroidとiOS、どちらも利用できますか?

 どちらも利用できます。2018年9月2日にAndroid版が先行リリースされていましたが、2018年10月16日に、iOS版もリリースしました。ぜひ、ダウンロードしていただき、アプリ「CAN.」を利用していただければと思います。

“語り合い”で心のつらさを和らげ、“情報の整理”で安心を

――そもそも、がんサポートコミュニティーはどのような活動を行っているのでしょうか?

 医療従事者と患者さんは、治療に際して共に立ち向かっていくパートナーです。しかし、医療従事が患者さんの苦しみを全て理解することは難しいという歯がゆい現実もあります。医療従事者が主に対処するのは患者さんの身体のつらさですが、患者さんは心のつらさも抱えています。この心のつらさを和らげるため、サポートするのが「がんサポートコミュニティー」の主な役割です。

 私たちの活動を学校に例えると、国語や数学などのような教科学習に当たるものが、患者さん同士で語り合う場を提供する「サポートグループ」です。この活動では、臨床心理士、社会福祉士や看護師も参加し、自分と似たような境遇にある患者さんたちと語り合うことで気づきを得てもらうことが目的です。同じ患者さんでも自分より元気な方を見ると、それだけで元気をもらい、生きる力や自分らしさを取り戻せる患者さんもいます。自分が決して独りではないこと、また自分らしく生きていくことの大切さを学ぶ場として非常に重要なものと考えています。また、学校のクラブ活動に当たるものとして、コーラスグループの「合唱団いきのちから」、ヨーガ講座、アロマテラピー講座などがあります。これらの活動は、より親密な仲間を作る手段となっています。その他、小旅行、勉強会・講演会などのイベントも行っています。

――「がん患者のための医療相談」という活動も行っているそうですが、これはどのような内容ですか?

医療相談
医療相談の様子(がんサポートコミュニティー提供)

 医療相談は、「身近に相談できる医師の一人でありたい」という思いから、私ともう一人の医師との2人で毎週水曜13~15時に行っています。

 主治医は、さまざまな患者さんを抱えているため、1人の患者さんに割ける時間は限られています。そのため、患者さんは「主治医から説明を受けたものの、何を言っていたのかよく理解できなかった」、「新聞記事で紹介されていた治療のこと尋ねても簡単な説明しか聞けなかった」など、主治医とのコミュニケーションに悩むことも少なくありません。また、「治療選択肢を示され、次回の診察まで決めてくるように言われたがどうして良いか分からない」といった悩みを持つ方もいます。

 医療相談では、このような患者さんやご家族のさまざまな悩みに対して、患者さんが覚えている断片的なキーワードをもとに、「それは…ということだと思いますよ」といったように、主治医の話を“翻訳”し、患者さんにとって必要な情報を一緒に整理していきます。多くの患者さんは、主治医が何を伝えたかったのかを理解するだけでも安心できるので、時間をかけて一緒に情報を整理していくことが大切だと感じています。

 本当は、主治医が患者さん一人ひとりのお話を時間かけて聞くことができたら良いのかもしれませんが、今の医療現場にそれを求めるのは難しいと思います。だからこそ、私たち患者支援団体の活動が大切になると感じています。もし、苦しんでいる患者さんやご家族がいる場合は、ぜひ医療相談にお越しください。

「CAN.」をはじめ、さまざまな活動で多くのがん患者さんを支援

――最後に、今後の活動について教えてください。

 「医療相談」は、医療従事者と患者さんの間に入って、両者を取り持つ役割があります。同様に、今回、リリースしたアプリ「CAN.」も、医療従事者や研究機関などが提供する正しい情報と患者さんを取り持つ役割があると感じています。

 インターネットで気軽にさまざまな情報を検索できるようになったからこそ、誤った情報に惑わされてしまうがん患者さんが増えています。患者さんによっては、誤った情報に惑わされている時間が命取りになってしまう場合もあります。そのため、私たちはアプリ「CAN.」を通じて、がん患者さんに正しい情報を届けていきたいと考えています。これからも、さまざまな活動を通じて、多くのがん患者さんを支援していきます。

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活動内容 看護師や臨床心理士、社会福祉士といった専門家ががん患者さんとそのご家族の心理社会的なサポートを提供する認定NPO法人です。同じ境遇にある患者さんに出会える「サポートグループ」は、東京都以外に千葉県柏市、大阪府大阪市でも開催しています。