卵巣明細胞がんなどARID1A遺伝子変異陽性のがんに対する新しい治療法を発見

文:がん+編集部

 ARID1A遺伝子変異のある患者さんに対する新しい治療法が発見されました。ARID1A遺伝子変異は、卵巣明細胞がん胆道がん胃がんなどアジア人に多いがんで、高頻度にみられます。

正常細胞への影響が少なく、がん細胞特異的な効果の高い治療法となる可能性

 国立がん研究センターは1月25日、様々ながんでみられるARID1A遺伝子変異のある患者さんに対する新しい治療法を発見したと発表しました。ARID1A遺伝子変異は、卵巣明細胞がん、胆道がん、胃がんなどでアジア人に多いがんで高頻度にみられ、特に卵巣明細胞がんは日本人に多く認められます。この研究は、国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野の荻原秀明研究員、河野隆志分野長と東京慈恵会医科大学・産婦人科学講座の高橋一彰助教、岡本愛光教授との共同研究によるものです。

 従来の分子標的薬は、個々の患者さんの遺伝子変異を調べ、がん細胞の増殖を活性化させている遺伝子変異を選択的に阻害する治療法です。しかし、遺伝子変異が検出されない多くの患者さんは、分子標的薬による治療の対象になりません。多くのがんで見つかるのは、p53やARID1Aのように遺伝子の機能を失わせるような「機能喪失性変異」です。

 研究チームは、ADID1A遺伝子変異の特徴である機能喪失性変異による代謝異常と、代謝異常を阻害する治療法を見つけました。機能喪失性変異を標的にするがん治療は、合成致死治療法と呼ばれ、BRCA1/2遺伝子変異のある遺伝性乳がん卵巣がん症候群の治療では、PARP阻害薬であるオラパリブ(製品名:リムパーザ)というお薬が用いられています。

 遺伝子やたんぱく質が欠損したときに、それが原因で細胞に新しい弱点となる遺伝子やたんぱく質が生まれることがあります。この弱点となる遺伝子を阻害することで細胞死が誘導するのが、合成致死治療法です。

 今回の研究では、ARID1A遺伝子変異があるがんでは、抗酸化代謝物グルタチオンの量が少ないという弱点があり、グルタチオン阻害薬やグルタチオン合成酵素に対する阻害薬には、ARID1A欠損がんに対する抗腫瘍効果があることがわかりました。

 今回の発表では今後の展望について、次のように述べられています。「今回のがん治療法の提案は、ARID1A欠損細胞には正常細胞にはない「代謝(メタボローム)の弱点」があるという発見に基づいています。よって、正常細胞への影響が少ないため、がん細胞特異的な効果の高い治療法となる可能性があります。また、ARID1A欠損は、卵巣がんなどの婦人科がん、胆道がん、胃がんなどの消化器がんを含め、多くのがんで観察されます。また、ARID1A遺伝子変異は、遺伝子パネル検査での同定も可能です。メタボロームを標的とした抗がん剤はまだまだ未開拓ですが、有望かつ新しい創薬領域です。APR-246を含めたグルタチオン阻害薬による治療法の確立、新しいグルタチオン合成阻害薬の開発に取り組むことで、さまざまなARID1A欠損がんの個別化治療を進め、治療成績の向上を目指してまいります」

がんの種類ARID1A変異陽性がんの割合世界の患者数日本の患者数
卵巣明細胞がん46%1.2万人1200人
子宮内膜がん43%18万人6000人
胃がん33%38万人42000人
卵巣類内膜がん30%1.3万人600人
膀胱がん28%12万人5600人
胆道がん27%5.0万人6000人
膵臓がん15%6.0万人5400人
肺腺がん12%15万人8200人
皮膚がん12%3.4万人2400人
大腸がん10%17万人9000人

JAMA Oncol.2018;4(11):1553-1568 国立がん研究センターがん情報サービス最新がん統計