膵臓がん、新しい治療標的を発見

2019/06/07

文:がん+編集部

 膵臓がんに対する新しい治療標的が発見されました。まだ動物実験の段階ですが、血管新生を抑制するVasohibin-1(VASH1)という因子と拮抗するVasohibin-2(VASH2)を阻害すると、膵臓がんの浸潤・転移が抑制され生存期間が有意に延長することが明らかになりました。

膵臓がん浸潤・転移を抑制し、生存期間を延長

 東北大学は5月29日に、膵臓がんの浸潤や転移を抑制する新しい治療標的を発見したと発表しました。東北大学加齢医学研究所東北大学未来科学技術共同研究センターの佐藤靖史教授の研究グループによるものです。

 研究グループは、これまでに、正常組織では発現しないVASH2が、さまざまながんで発現し、がんの血管新生を促進するばかりか、がんの進展と密接に関係していることを明らかにしてきました。さらに動物実験により、このVASH2を阻害することで、卵巣がん、肝臓がん、大腸がん、胃がん、食道がん、乳がん、前立腺がんなどの顕著な抗腫瘍効果が得られることを明らかにしてきました。

 研究グループは今回、膵臓がんでVASH2の発現が高い患者さんほど生存期間が有意に短いことを明らかにしました。また、ヒト膵臓がんのマウスモデルを使った動物実験により、膵臓がん細胞のVASH2産生を阻止することで、膵臓がんの浸潤・転移が謙虚に抑制され、生存期間が有意に延長することも明らかにしました。さらにVASH2の発現が、性別、年齢、病期などとは独立した予後因子であることもわかりました。

 VASH2の発現を阻害すると、膵臓がん細胞の遊走性、浸潤性が直接的に抑制され、血管新生も抑制されます。また、VASH2は骨髄由来抑制細胞やM2型マクロファージをがん細胞内に引き寄せることで、細胞障害性T細胞を排除し、がん免疫を抑制しますが、VASH2を阻害することで、この抑制も解除します。

 VASH2を阻害するとこで、膵臓がんの転移や血管新生を抑制し、免疫チェックポイント阻害薬が奏功しない膵臓がんでも、VASH2を阻害することで、免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られるようになると期待され、現在、VASH2を標的とした新しいがん治療法の開発が進められています。