岡山済生会総合病院(岡山県岡山市)栄養サポートチーム(NST)

犬飼道雄先生
監修●犬飼道雄 岡山済生会総合病院内科主任医長/がん化学療法センター

2019.6 取材・文●植田博美

岡山済生会総合病院

岡山済生会総合病院

がん化学療法センタースタッフ

がん化学療法センタースタッフ

 JR岡山駅から徒歩圏内にある岡山済生会総合病院は、同系列の岡山済生会外来センター病院・予防医学健診センターと道を挟んで斜めに向かい合うように立っている。2002年に県内で初の地域がん診療連携拠点病院に指定された中核病院であり、栄養サポートチーム(NST)をはじめとするチーム医療を積極的に取り入れていることでも知られる。 2016年に新装された新しく明るい院内で迎えてくれたのは、内科主任医長の犬飼道雄先生。同院でNSTを推進する中心的な役割を担っている。

 うちの強みはチーム力、と犬飼先生は言う。「NSTメンバーだけでなく、院内スタッフ全体にNSTの精神が浸透しているように感じます。食べられない患者さんがいたら、みんなが何とかしなきゃと思うんです。そしてその想いはチームでサポートにつながる、そんなムードが院内全体に行き渡っていますね」

がん治療中は「食べられなくて当たり前」ではない! 栄養の大切さを知って、治療にへこたれない体の準備を

各病棟にリンクナースを配置して密に連携

犬飼道雄先生
「大切なのは食べて栄養を摂ること。患者さんには『それだけ?』と言われますが(笑)、それが一番重要なんです」と話す岡山済生会総合病院内科主任医長で、世界最大の栄養関連学会、日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)理事の犬飼道雄先生

 日本に初めてNSTの概念が導入されたのは1990年代といわれる。同院のNSTは、症例検討を必要とする患者について意見交換を行うランチミーティングという形で2003年に始まった。現在のチームメンバーは、医師と管理栄養士を中心に、看護師、薬剤師、歯科医師、臨床検査技師、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカーなど多職種の専門家で構成されている。

 そのうち日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)認定のNST専門療法士は、管理栄養士3人、看護師3人、薬剤師2人、臨床検査技師1人(2019年4月現在)で、今後も増える予定という。チームでは定期的に症例検討会や病棟回診を行い、それぞれ専門の立場から意見交換を行う。さらに各病棟にNSTリンクナースを1~2人置き、病棟でNST介入が必要な患者さんがいないか随時連絡をし合っている。

 「検討会や打ち合わせは外来診察室や化学療法センター、栄養科などで行っています。多職種の人間が兼任で関わっているので、NST専用の部屋というのはないんです」と犬飼さんは説明する。

栄養サポートはさらなる広がりを求められている

 NSTが日本に導入された当初、対象は専(もっぱ)ら入院患者だった。現在は、特にがん診療において求められるのは、外来患者に対してのものだという。

 「近年入院期間はどんどん短くなっています。手術後の入院日数は10日程度、抗がん薬治療目的の入院なら1泊2日です。入院日数がもっと長かった20年前であれば、入院中に栄養状態が改善するまで栄養療法をじっくり行うこともできました。最近はよりよい栄養療法を行うために、入院前や転院した病院や施設、あるいは外来や在宅での継続する栄養サポートが求められています。したがって地域一体型NST・在宅NST・外来NSTが今後の鍵(カギ)になってきます。そのために、患者さんや家族だけでなく、地域の医療スタッフへの周知や教育が重要です。私たちは今、それを地道にがんばっているところです」

しっかりとした栄養サポートでがん治療に耐えられる体に

勉強会の写真
院外へのNST啓蒙活動も積極的に行なっている。県内外の医療・介護・行政関係者が参加する勉強会を年に5回程度開催。金曜日の夜にもかかわらず、毎回150~300人が参加するという。

 犬飼先生は、もともと消化器外科医だったそうだ。なぜ内科へ?なぜ栄養サポートに興味をもったのだろうか?

 「がん治療の3本柱は、手術・薬物(抗がん薬など)・放射線です。若いころは手術でがんを治そうと思っていましたが、よりがんを治すためには、より長生きするためには、医師として経験してゆくにつれて、手術以外の治療も大事であることがわかってきました。いまは手術をする外科の先生たちと一緒に、薬物(抗がん薬など)治療を専門にがん治療に当たっています。

 実はがん治療がうまくいくかは栄養と密接な関係があるんです。何の症状もなくがんが見つかる患者さんもいますが、食欲不振や体重減少など体に不具合があって調べてみたらがんが見つかった患者さんもおられて、病院に来られたときには栄養状態の悪い患者さんも実はかなり多いんです。また治療中に食事が摂れなくなってしまって栄養状態が悪くなってしまうこともあって、栄養は本当に大事なんです」

術前、術後ともに栄養サポートを

 犬飼先生は身を乗り出しながら、さらに熱く語り始めた。

 「傷の治りが遅いとか術後感染症にかかりやすいとか、そういう患者さんは栄養状態の悪い方が多かったんです。それで栄養剤や点滴などを研究し始めました。研究して行くにつれて、しっかりした栄養サポートを行なえば治療に耐えることができることがわかりました。悪くなる前に手を打っておくというか、予防しておけば効果が期待できるんです。いわば『転ばぬ先の杖』ですね。当院のNSTは入院の前から、そして退院後も継続して介入しています」

まずは“体重を測る“ことから始める

 犬飼先生が患者さんに栄養の重要性をレクチャーする時の説明資料には、大きく『体重を測りましょう』と書いてある。これはどういうことだろう?

 「手術や抗がん薬治療をしていると、食べられなくて当たり前、痩(や)せても仕方がない、患者さんや家族はそう思い込んでいることがかなり多くあります。そんなことはありません!それは間違った知識です!と声を大にして言いたい。食べないと痩せて体力がなくなっていくのは健康な人も病気の人も同じ。手術も抗がん薬も身体に大きなダメージを与えます。そうでなくても体力が落ちている人にダメージを与えたら…、良いことがあるわけありません。そんな当たり前の話が、がん治療中はわからなくなってしまうんです」

体重が5%減ったら大変!という意識を持つ

 犬飼先生にどのくらい体重が減ると注意が必要なのか聞いてみると

 「食べること、それもおいしく食べることはすごく重要なんです。最近の吐き気止め薬(制吐薬)はすごく進歩していますから、吐き気なしで抗がん薬治療を多くの患者さんが受けることができます。だからもし吐き気があって食事が摂りにくいなら必ず主治医に教えてください。また食事をしっかりとることは大切です。たったひと口でも『食べてる』という患者さんはいるんですが、そこに『栄養』という概念はありません。

 そこで鍵になるのが体重です。体重が減っていたら栄養が足りていないということ。例えば40kgの人が38kgになった、わずか2kgの体重減少でも大変なんだということを知ってもらいたい。栄養サポートにおいては体重が5%減ったら大変!は当たり前のことなんです。体重が減ったら注意して、と私はいつも患者さんと家族に言っています。皆さんに栄養に対する正しい知識を持ってもらう。そういう“教育”も栄養サポートの重要な役割です」

外来化学療法センターがポイント

 犬飼先生は、抗がん薬の副作用は浅く早くがポイントと言うが、「口腔内膜障害(口内炎)や吐き気など辛い副作用は、浅く(なるべく軽症で)早く治すのが大事です。口内炎や吐き気が深くなると(重症になると)、食欲不振となり栄養状態が悪くなり、様々な問題が起きてきます。単なる口内炎・吐き気では終わらなくなるのです。

 そうなると次の治療をがんばろうという意欲もなくなってきます。患者さんには、こんなので悪いなあと思うのではなく、早い段階から遠慮なく主治医に言って、深刻にならないうちに対処しましょうと常に話しています。そうなるとポイントは外来や外来化学療法センターになります。抗がん薬治療を受けている患者さんは、外来化学療法センターで治療中一定時間おられ、外来化学療法センターには様々な職種の医療者がいます。

 当院では、外来化学療法センターのスタッフを対象に、栄養目線でのがんに関する勉強会も積極的に行なっています。がんだけではない社会環境も含めてその人をみることで、当院では元気に抗がん薬治療を行なう患者さんが多いと思っています」

「シームレスな栄養管理が行えるように~入院前から退院後まで~」

栄養科科長 大原秋子さん
栄養科科長 大原秋子さん

 「食べること」は栄養を摂るだけでなく、楽しみの1つでありとても大事です。食事が食べられないとご本人は気持ちが落ち込み、家族も心配になります。

 年々、入院平均在院日数が短くなり、入院中だけで栄養サポートを行うことは難しくなってきています。「がん」と診断されたことで食事量が減り、痩せられる方も少なくありません。特に手術や化学療法を予定していて体力が落ちている場合は、入院前から栄養状態を改善していくことが大切になります。入院前に栄養状態の把握、身体計測や体成分分析器(InBody770)による筋肉量・体脂肪量の測定などを行って、その方にあった食事量や食べ方の工夫についてお話をしています。食事だけでは栄養が足りないときは、栄養補助食品を紹介し、身体や気持ちの準備をして治療に備えていただきます。

 最近はドラッグストアやスーパーなどに栄養補助食品がたくさん販売されています。栄養補助食品というとドリンクタイプのものが有名ですが、ドリンクタイプのものをゼリーやシャーベットにするなどすると飽きずに摂ることができます。ドリンクタイプ以外にも佃煮や豆腐、スープなど最近は普通においしくいただけるものがたくさん販売されているんです。また家族で食べる料理にひと工夫するだけで栄養を強化することもできるんです。

 入院中は、病棟担当の管理栄養士が栄養サポートを行います。病態に合った食事をお出しして食事が進まない場合は、好きなものや食べやすいものを聞いて、患者さん一人ひとりに合わせたメニュー調整を積極的にしています。まずは食べることが大切です。退院前にはご家族と一緒に栄養食事指導を行います。家に帰られてからの栄養バランスの良い食事の摂り方をお話しています。食べられない時に「食べて」ということは苦痛になります。身体に良いものにこだわるより、まずは食べたいときに食べられるものを少量から始めるのがコツです。ここでも栄養補助食品は強い味方です。足りない栄養を手軽に補うことが出来るので多種類の中から患者さんの嗜好(しこう)に合ったものを紹介しています。また、食事で困ったときはいつでも相談できるように栄養科直通の電話番号を伝え、退院後も安心して療養して頂けるようにしています。

 転院される場合は、当院での栄養管理の状況や課題など記載した栄養情報提供書を作成し、転院先の管理栄養士宛に届くようにしています。在宅医療の場合には、多職種による退院時カンファレンスに参加して情報共有し、栄養管理に関する情報を記載してお渡ししています。切れ目のない栄養管理ができるように多職種と地域連携をして患者さんや家族に関わっています。

 食べることに悩んだら、まずは管理栄養士にたずねてみてください。

「味覚障害や食欲不振には適切なアドバイスを」

がん化学療法センター 乳がん看護認定看護師 岡本直美さん
がん化学療法センター
乳がん看護認定看護師 岡本直美さん

 抗がん薬治療を受けられている患者さんは、治療に伴う様々な副作用が見られます。吐き気や嘔吐、食欲不振、味覚障害、口内炎など食事に影響してくるものもあります。

 がん化学療法センターでは、治療中の患者さんに様々な副作用の程度や日常生活で困り事がないかなどお話を伺っています。副作用の種類や程度によっては、食欲不振となり食事摂取量が低下し体重減少を引き起こす原因になります。そのため、抗がん薬治療を受けられている患者さんの栄養状態を評価していくことはとても大切です。

 味覚障害は多くの患者さんに見られます。甘さを感じなくなったり、食べ物そのものの味がしなくなったりすると、食欲は余計に減退します。主婦であれば料理の味付けがわからなくなり、落ち込んでしまわれることも。一般的には口腔ケアをしっかりするようにアドバイスするのですが、味付けのときはご主人やお子さん、家族にお願いするのも良いですね。また患者さんとそのご家族の方に食事が摂れるよう食事形態の紹介や少しの量で高カロリーの食事が摂れるよう栄養補助食品の紹介をしています。また、栄養科の協力も得て栄養補助食品紹介コーナーも設けており、患者さんが実際に手に取ってみたり、試飲していただいたりできる環境も整えています。

 私たちは抗がん薬治療もですが、患者さんをみています。しっかりした身体は治療を続ける上ですごく大切です。しっかりした身体のもとは食べること。私たちが日頃から「栄養が大事」「体重を測って」と言っているためか、患者さんの栄養に対する意識は高いですね。これからも患者さん自身や家族も栄養に対する意識を持てるように働きかけていきたいと思います。

「吐き気なしの抗がん薬治療を目指します」

がん薬物療法認定薬剤師 藤森浩美さん
がん薬物療法認定薬剤師 藤森浩美さん

 抗がん薬治療中の患者さんは様々な症状があります。特に私たちが気になっているのは吐き気です。吐き気があると食事が摂りにくく、栄養状態が悪くなり、抗がん薬治療を続けることができなくなり、治療成績にもかかわってきます。最近は吐き気止め(制吐薬)が進歩していて、適切に使えば吐き気をかなりコントロールすることができます。吐き気のメカニズム(発症機序)は多種多様なので、患者さんに聞き取りをしながら、様々な種類の制吐薬から適切なものを提案します。漢方薬も普通にアドバイスしています。

 当院は院内処方なので、化学療法に携わる薬剤師は薬剤指導までしっかり行ないます。様々な症状をチェックしながら、薬を処方できるメリットがあるんです。栄養剤の中には薬品もあります。私たちも栄養に興味を持っているんです。

「食べることの大切さを教えてもらいました」

76歳男性直腸がん患者さんご夫妻
76歳男性直腸がん患者さんご夫妻

 直腸がんで手術を受けました。手術直後は流動食でしたが、今は食べることに対する制限は何もありません。体重を測りなさい、といつも言われているので注意しています。おかげさまで少しずつ体重は増えています。

 入院するときに、栄養の効果を教えてもらいました。食欲のない時に食べると良いものとか。今も食べたくない時はありますが、意識して食べるようにしています。栄養を摂ることが大事だと分かっていますのでね。

栄養補助食品
各種栄養補助食品

 たくさん並んだ栄養補助食品。少量高カロリーで手軽にとれるドリンクタイプやゼリータイプの他、ごはんに乗せて食べるタイプもある。味のバリエーションもあり、続けられるような工夫がされている。今回、見た目は普通の食事だが、食べると美味しくてスルッと食べられる散らし寿し、うどんやすき焼きの試食も行ない、あまりのやわらかさに一同が驚いた。このように多職種でわいわいと会話をしながら試食を行うことで共通言語も増えてくる。ただ、栄養たっぷりの栄養補助食品のため太らないように注意が必要である。

医療スタッフによる栄養補助食品の試食会
医療スタッフによる栄養補助食品の試食会

 取材当日は医療スタッフを対象にした栄養補助食品の試食会が行われていた。各食品メーカーが消費者(患者さん)のニーズに合わせて新商品を次々と開発しており、機能を備えた栄養補助食品が販売されている。管理栄養士は常に新商品を試食し、味、栄養価、活用のしやすさや価格など検討を行っている。その中でお勧めの栄養補助食品の試食会を不定期に行っている。「実際に食べて美味しいことを知ってもらうことが大切です。医師や看護師など医療スタッフが味を知って、患者さんに自信をもって勧めて頂きたいと思います」と坪井管理栄養士は話す。

 (左から、消化器内科で内視鏡センター長の那須淳一郎先生、特任参与で肝胆膵外科の三村哲重先生、栄養管理士の坪井里美さん、消化器外科で診療部長の高畑隆臣先生)

栄養科スタッフ
栄養科スタッフ
厨房スタッフ
厨房スタッフ

 現在、管理栄養士11名で栄養管理・給食管理を行っている。病棟や外来へ栄養食事指導、カンファレンスや回診などに行っており取材時は管理栄養士4名が在席。患者さんの食事はすべて2階のHACCP(食品の製造工程における品質管理システム)に基づいた厨房(ちゅうぼう)にて作っている。直営で調理師が患者さんの病態や嗜好に合わせ、栄養がきちんと口から取れるように美味しい食事作りをめざしている。

化学療法センター
化学療法センター

 同院でのがん化学療法センターでは、消化器疾患をはじめ、呼吸器領域、乳腺領域、婦人科領域、皮膚科領域でのがん化学療法を受けられている患者さんの治療・看護を行っています。化学療法センタースタッフは、受診に来られるがん患者さんの検査~診察、投薬管理、患者相談、患者指導の役割を担っており、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士だけでなく、診療補助者、がん相談支援センターなど多職種と協働しながら患者さんや家族を支援している。