岡山済生会総合病院 栄養サポートチーム(NST)第一部

がん治療中は「食べられなくて当たり前」ではない!
栄養の大切さを知って、治療にへこたれない体の準備を

監修:犬飼道雄 岡山済生会総合病院 内科主任医長/がん化学療法センター
取材・文:植田博美

岡山済生会総合病院 栄養サポートチーム(NST)
岡山済生会総合病院 栄養サポートチーム(NST)

 JR岡山駅から徒歩圏内にある岡山済生会総合病院は、同系列の岡山済生会外来センター病院・予防健診医学センターと道を挟んで斜めに向かい合うように立っている。2002年に県内で初の地域がん診療連携拠点病院に指定された中核病院であり、栄養サポートチーム(NST)をはじめとするチーム医療を積極的に取り入れていることでも知られる。
 2016年に新装された新しく明るい院内で迎えてくれたのは、内科主任医長の犬飼道雄先生。同院でNSTを推進する中心的な役割を担っている。

NSTスタッフ集合写真
NSTスタッフ集合写真

 うちの強みはチーム力、と犬飼先生は言う。「NSTメンバーだけでなく、院内スタッフ全体にNSTの精神が浸透しているように感じます。食べられない患者さんがいたら、みんなが何とかしなきゃと思うんです。そしてその想いはチームでサポートにつながる、そんなムードが院内全体に行き渡っていますね」

栄養サポートはさらなる広がりを求められている

犬飼道雄さん
「大切なのは食べて栄養を摂ること。患者さんには『それだけ?』と言われますが(笑)、それが一番重要なんです」と話す岡山済生会総合病院内科主任医長で、世界最大の栄養関連学会である日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)理事の犬飼道雄先生

 NSTが日本に導入された当初、対象は専(もっぱ)ら入院患者だった。現在は、特にがん診療において求められるのは、外来患者に対してのものだという。
 「近年入院期間はどんどん短くなっています。手術後の入院日数は10日程度、抗がん薬治療目的の入院なら1泊2日です。入院日数がもっと長かった20年前であれば、入院中に栄養状態が改善するまで栄養療法をじっくり行うこともできました。最近はよりよい栄養療法を行うために、入院前や転院した病院や施設、あるいは外来や在宅での継続する栄養サポートが求められています。したがって地域一体型NST・在宅NST・外来NSTが今後の鍵(カギ)になってきます。そのために、患者さんや家族だけでなく、地域の医療スタッフへの周知や教育が重要です。私たちは今、それを地道にがんばっているところです」

しっかりとした栄養サポートでがん治療に耐えられる体に

勉強会の写真
院外へのNST啓蒙活動も積極的に行なっている。県内外の医療・介護・行政関係者が参加する勉強会を年に5回程度開催。金曜日の夜にもかかわらず、毎回150~300人が参加するという。

 犬飼先生は、もともと消化器外科医だったそうだ。なぜ内科へ?なぜ栄養サポートに興味をもったのだろうか?
 「がん治療の3本柱は、手術・薬物(抗がん薬など)・放射線です。若いころは手術でがんを治そうと思っていましたが、よりがんを治すためには、より長生きするためには、医師として経験してゆくにつれて、手術以外の治療も大事であることがわかってきました。いまは手術をする外科の先生たちと一緒に、薬物(抗がん薬など)治療を専門にがん治療に当たっています。実はがん治療がうまくいくかは栄養と密接な関係があるんです。何の症状もなくがんが見つかる患者さんもいますが、食欲不振や体重減少など体に不具合があって調べてみたらがんが見つかった患者さんもおられて、病院に来られたときには栄養状態の悪い患者さんも実はかなり多いんです。また治療中に食事が摂れなくなってしまって栄養状態が悪くなってしまうこともあって、栄養は本当に大事なんです」

術前、術後ともに栄養サポートを

 犬飼先生は身を乗り出しながら、さらに熱く語り始めた。
 「傷の治りが遅いとか術後感染症にかかりやすいとか、そういう患者さんは栄養状態の悪い方が多かったんです。それで栄養剤や点滴などを研究し始めました。研究して行くにつれて、しっかりした栄養サポートを行なえば治療に耐えることができることがわかりました。悪くなる前に手を打っておくというか、予防しておけば効果が期待できるんです。いわば『転ばぬ先の杖』ですね。当院のNSTは入院の前から、そして退院後も継続して介入しています」

まずは“体重を測る“ことから始める

 犬飼先生が患者さんに栄養の重要性をレクチャーする時の説明資料には、大きく『体重を測りましょう』と書いてある。これはどういうことだろう?
 「手術や抗がん薬治療をしていると、食べられなくて当たり前、痩(や)せても仕方がない、患者さんや家族はそう思い込んでいることがかなり多くあります。そんなことはありません!それは間違った知識です!と声を大にして言いたい。食べないと痩せて体力がなくなっていくのは健康な人も病気の人も同じ。手術も抗がん薬も身体に大きなダメージを与えます。そうでなくても体力が落ちている人にダメージを与えたら…、良いことがあるわけありません。そんな当たり前の話が、がん治療中はわからなくなってしまうんです」

体重が5%減ったら大変!という意識を持つ

 犬飼先生にどのくらい体重が減ると注意が必要なのか聞いてみると
 「食べること、それもおいしく食べることはすごく重要なんです。最近の吐き気止め薬(制吐薬)はすごく進歩していますから、吐き気なしで抗がん薬治療を多くの患者さんが受けることができます。だからもし吐き気があって食事が摂りにくいなら必ず主治医に教えてください。また食事をしっかりとることは大切です。たったひと口でも『食べてる』という患者さんはいるんですが、そこに『栄養』という概念はありません。そこで鍵になるのが体重です。体重が減っていたら栄養が足りていないということ。例えば40kgの人が38kgになった、わずか2kgの体重減少でも大変なんだということを知ってもらいたい。栄養サポートにおいては体重が5%減ったら大変!は当たり前のことなんです。体重が減ったら注意して、と私はいつも患者さんと家族に言っています。皆さんに栄養に対する正しい知識を持ってもらう。そういう“教育”も栄養サポートの重要な役割です。

外来化学療法センターがポイント

 犬飼先生は、抗がん薬の副作用は浅く早くがポイントと言うが、「口腔内膜障害(口内炎)や吐き気など辛い副作用は、浅く(なるべく軽症で)早く治すのが大事です。口内炎や吐き気が深くなると(重症になると)、食欲不振となり栄養状態が悪くなり、様々な問題が起きてきます。単なる口内炎・吐き気では終わらなくなるのです。そうなると次の治療をがんばろうという意欲もなくなってきます。患者さんには、こんなので悪いなあと思うのではなく、早い段階から遠慮なく主治医に言って、深刻にならないうちに対処しましょうと常に話しています。そうなるとポイントは外来や外来化学療法センターになります。抗がん薬治療を受けている患者さんは、外来化学療法センターで治療中一定時間おられ、外来化学療法センターには様々な職種の医療者がいます。当院では、外来化学療法センターのスタッフを対象に、栄養目線でのがんに関する勉強会も積極的に行なっています。がんだけではない社会環境も含めてその人をみることで、当院では元気に抗がん薬治療を行なう患者さんが多いと思っています」 <了>