藤田医科大学第一教育病院(愛知県豊明市)栄養サポートチーム(NST)
監修●桂 長門
2019.7 提供●がんサポート
日本一の病床数を誇る藤田医科大学病院(第一教育病院)。同病院の外科・緩和医療学講座は、2003年10月にわが国初の緩和医療を専門とする医学部講座として誕生した。
当初は外科学・緩和ケア講座として開設したが、看取りの緩和ケアではなく、「科学的根拠に基づく医学(エビデンス・ベースト・メディスン:EBM)」に即した緩和医療学への変換を図る目的で、2008年4月に外科・緩和医療学講座に改名した。
同講座教授の東口髙志先生は、知る人ぞ知る、わが国おける栄養サポートチーム(NST)創設のパイオニア的存在となっている。
その歴史を遡ると、臨床栄養に関わる医療従事者を会員とする日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)は、2001年に①日本独自に考案された新しい運営システム “持ち寄りパーティー方式/兼業業務方式(Potluck Party Method:PPM)” を用いたNSTを全国に普及させること、さらに②NST活動の診療報酬上への反映(NST加算の新設)をさせること、を目的に “NSTプロジェクト” を設立、その活動にあたり、当時、同プロジェクト委員会の中心委員であった、東口先生が作成したガイドラインが採用され、教育用テキストとなった経緯がある。
栄養サポートチーム(NST)創設のパイオニア
日本でのNST活動の魁(さきがけ)的存在
今回、取材に対応していただいたのは、外科・緩和医療学講座准教授で、消化器外科医の桂 長門先生。京都大学大学院医学研究科を修了後、京都・宮津市内の病院に勤務。日々の診療の傍ら、静脈経腸栄養学に興味を抱き、欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)のTTT (Teach The Teacher) プログラム指導医の資格を取得するなど地道な活動行っていたところを東口先生の目にとまり、2017年から藤田医科大学第一教育病院でNSTのコアスタッフとして活躍している。
NSTの組織構成
総勢163名の大所帯
藤田医科大学第一教育病院のNSTは現在、総勢163名。NST実務委員長(東口先生)の下に、副委員長、専任メンバー(コアスタッフ)が22名(医師6、歯科医1、看護師2、薬剤師5、管理栄養士2、言語聴覚士2、臨床検査技師1、MSW1、事務1)が在籍している。
さらに各病棟の担当メンバー(サテライトスタッフ)A棟~C棟(全47病棟:1,435床)として、NSTメンバー141名(医師33、看護師37、薬剤師57、管理栄養士14)で構成されている(図1)。
図1.藤田医科大学病院におけるNST構成 (2019年4月現在)
NSTの活動内容
多職種によるチーム医療
この大所帯はどのように運営されているのか。NST活動の実際を見ると、図2のように、まず入院時に、患者さんの身長・体重測定、身体所見、病歴、生活習慣、食事/栄養摂取状況の聴取など「栄養スクリーニング」を行い、次いで身体計測値、身体所見、血液・尿検査、消化器症状の問診などの「栄養アセスメント(評価)」を行う。
次に、それらの結果に基づいて「栄養管理のプログラミング(立案)」を行い、栄養管理の実施へ移行する。そしてある一定期間、「栄養管理モニタリング」を行い、栄養管理法の実施状況のチェックと修正を行う。
このモニタリングにより、必要カロリー・投与内容の見直し、栄養管理法の再検討、合併症対策などを含めた「栄養管理再プラニング」を行う。そして退院時には、患者さんのアウトカム(臨床上の成果)や栄養管理法の効果の評価が行われる。
一応、入院中は、このように医師、看護師、管理栄養士、検査技師、薬剤師、リハビリスタッフなどの多職種によるチーム医療が行われるが、退院後は患者さん自身や家族が栄養管理に関わるようになるため、退院時にはNSTによる退院後の栄養管理法の指導が行われる。
図2. NSTの活動内容
NST業務の3本柱
桂先生は藤田医科大学附属病院でのNST業務の3本柱として①NST回診(ラウンド)、②NST検討会(ミーティング)、③コンサルテーションを挙げてくれた。
回診は、NSTによる栄養管理の上で最も重要なものの1つで、対象となる患者さんの病室を定期的に訪問し、栄養管理状況のチェックを行うもの。
患者さんに直(じか)に接することにより、栄養管理上の問題点や課題、希望などを知ることができる。患者さんにとっても、スタッフに接することにより、安心感や良好なQOL(生活の質)が得られることにもなる。
定期検討会(NSTコアミーティング)では、回診で問題となった事項や症例などを検討し、改善策を話し合う。検討会で得られた対応策は、次回の回診にも反映される。また検討会では、病院全体における栄養管理法に関する問題点の分析や対策も考案される。
コンサルテーションとは、「異なる専門性をもつ複数の者が、援助対象である問題状況について検討し、よりよい援助の在り方について話し合うプロセス」という意味だが、ここではスタッフからの栄養管理上の疑問について別のスタッフが対応することを指し、常に新しい情報の提供が行われることが理想と考えられている。即答が不能な内容(疑問)についてはコアスタッフによる検討会へ提示される。
NST介入件数の年次推移
5年間で介入件数が2.8倍に
このように、同病院での患者さん一人ひとりに適合したきめ細かい栄養管理が、患者さんの生存期間の延長やQOLに対し、有効性を示す結果をなっている。これを裏付けるデータがある。同院でのNSTの年度別介入件数の2014年~2018年の年次推移をみると、2014年の1,428件から2018年の3,978件例と約2.8倍の増加となっている(図3)。
図3. 藤田医科大学病院における年度別NST介入件数の推移
この増加について、桂先生は「我々のきめ細かい対応が患者さんから評価を受けていることを示していると思います」と述べると同時に、「患者さん自身も、栄養管理の有用性に気づき始めているのではないでしょうか」と指摘している。
患者管理と指導の実際
患者さんに寄り添って栄養管理と運動指導
取材日の午後からはラウンド(回診)が予定されており、患者さんの取材もOKということで、同行させてもらった。胃がんの患者さんで、1回目の手術で胃噴門部の切除は行ったものの、全摘するには体重が軽く、手術に耐えられないとの判断で、入院して栄養管理を受けている68歳の男性の長谷川利勝さん。NSTスタッフの桂先生、濱本憲佳さん(NST専門療法士)、齊藤由起さん(管理栄養士)らと病室を訪れると、ちょうど東口先生の声掛けのもと上半身を立てたまま行う、膝(ひざ)の屈伸運動 “スクワット”を実践中だった。
長谷川さんには課せられているのは、朝昼夜の各30回と就寝前にプラス10回の計100回のスクワット。以前新聞配達の仕事をやっていて、足腰が鍛錬されていることもあり、さらに50回追加しているとのことで、楽々とこの負荷運動をこなしているという。
1回目の手術後、急激な体重減少がみられた長谷川さんは、入院前に比べて、骨格筋量が増加、体重も29.8kgから34.5kgに増加していた。
こうした背景には、運動負荷に耐えられるように、栄養管理に用いられている補助食品の効能も見逃せられない。
長谷川さんは栄養補助食品として、GFO(グルタミン、ファイバー、オリゴ糖を含有した粉末製剤)や乳酸産生抑制効果のあるインナーパワーを摂取していた。いずれも栄養補助食品として効果が認められているもので、通販等でも購入可能という。
長谷川さんの体力は順調に回復しており、体重も4.6kg増え、2週間後には胃全摘手術が行われる予定だという。
長谷川さんはこうした栄養補助食品以外にも、自分の好みの間食(おやつ)も食べているとのことだったが、これについても管理栄養士の齊藤さんは、なるべく栄養価の高い物を選ぶように助言しているという。
この長谷川さんのように、栄養治療により著しく体力が改善する例もあるが、必ずしも全員に著効が認められるわけでもない。あまり効果の認められない例もある。桂先生は「著効例とそうではない例のデータを分析し、その原因を探索中です。有効性の差の原因を突き止めることにより、効果の認められない症例に対する改善策を検討していきたい」としている。
桂先生は栄養管理の重要性について、「これまでがん患者の終末期は、十分な栄養摂取ができずにやせ細って亡くなっていくのが当たり前のようになっていましたが、個々の患者さんに合った栄養管理を施すことにより、亡くなる直前までQOLを保ちながら家族と笑顔で過ごされ、最期は安らかに眠るように亡くなる例を数多く目にしています。緩和ケアにおいても、たんに疼痛管理を行うだけでなく、早期から病状の代謝に合った栄養管理を適切に行うことが重要だと考えています」と述べている。
栄養管理に関しては、これまでは管理をつかさどる管理栄養士の育成に重点が置かれており、今後、常に更新される新しい知識を身に着けた認定管理栄養士が育つことが期待されるが、一方で、患者さん自身に対する栄養管理の重要性の自覚啓発が大きな課題となっている。こうした背景に基づき、藤田医科大学NSTでは “WAVES(We Are Very Educator for Society)” と呼ばれる、一般向け活動を行っており、地域社会での栄養管理に関する催し物を企画し、地域連携を高めている。
常に新しいNSTの在り方を追求している藤田医科大学病院のNST。今後どのような新しい試みがなされるのか、目が離せない。取材・文●「がんサポート」編集部
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