〇基礎知識

監修●東口髙志 藤田医科大学医学部外科・緩和医療学講座主任教授

2020.9 提供●がんサポート

 がんの患者さんはやせやすいといわれます。事実、がん患者さんの多くは、がんと診断された時点で、体重減少がみられることが明らかにされています。

 では、がんになるとどうしてやせるのでしょう。

 これにはいくつかの理由があります。まず、がん細胞は正常な細胞に比べて、多くのエネルギーを消費します。このため、身体から徐々に栄養が奪われていくのです。

 また、がん治療に伴う副作用によって、食事が十分摂れず、エネルギー不足になることも、やせる一因となります。

 やせて低栄養の状態が続くと、体力や免疫状態が低下し、がんの進行を促すだけでなく、感染症なども起こしやすくなります。

 そこでカギとなるのが「栄養」です。たとえエネルギーを奪われても、それをしっかり補給すれば、体力が回復し、がんの治療にも好影響をもたらします。

 ここでは最近注目されている「がんと栄養」にスポットを当て、現在わかっている知見を基礎知識としてまとめてみました。

<がんになると、なぜやせるのか?>

〇がんが栄養を奪う

 原因の1つは、がん細胞の性質にあります。がん細胞は自分自身が生きるため、多くのエネルギーを必要とします。その供給源とするため、私たちの身体に〝代謝異常〟を引き起こし、栄養を奪い取るのです。

 代謝とは、摂取した食べ物をエネルギーに変えたり、筋肉などの組織を作ったりするために、体内で起こる生化学的な反応のことです。私たちの身体は、この代謝が正常に機能することで、生命活動を維持していますが、がんはこの代謝を狂わせるのです。

 なかでも代表的なものとして、糖代謝の異常が挙げられます。よく知られているように、ご飯や麺類、パンに多く含まれる炭水化物は、消化・分解されてブドウ糖になります。ブドウ糖は私たちの大切なエネルギー源ですが、がん細胞にとっても重要なエネルギー源です。

 そこでがん細胞は、多くのブドウ糖を得るため、糖代謝に関わる酵素に異常を起こさせ、タンパク質や脂肪を分解してブドウ糖を生成させます。そしてがん細胞はそのブドウ糖を消費して、急速に増殖していきます。

 一方、エネルギー源を奪われたがん患者さんは、それを十分に補給しないと、だんだんと栄養不良に陥っていきます。

 すなわち、がん細胞による代謝異常は、糖だけではなくサイトカインという物質を介して、タンパク質の代謝も変化させます。サイトカインは様々な細胞に働きかけて細胞の働きを変えるホルモンに似た物質ですが、がん細胞はこれを過剰に分泌して、タンパク質の分解を促進します。

 筋肉の材料はタンパク質なので、体内でそれが不足すれば、筋肉は次第に減少していきます。また、サイトカインは、脂質代謝にも悪影響を及ぼし、脂肪細胞から血液中に脂肪が溶け出すようになります。脂肪は糖に変換されてがん細胞に使われます。

 こうした一連の代謝異常が重なることによって、がん患者さんは栄養状態が悪化すると同時に、筋肉が細り、体脂肪も減って、あっという間にやせていくのです。

〇食事が十分摂れないことも一因

 がん患者さんがやせやすいもう1つの原因は、食欲不振や食事量の減少による栄養不良です。

 例えば、食べ物の通り道である食道や胃・大腸にがんができ、それが大きくなって消化管の通過障害が起こったりすると、食事を十分摂れなくなります。また、がんによる痛みが、食欲を衰えさせることもあります。

 さらに、化学療法などの治療による、吐き気や嘔吐、口腔の痛みや渇き、味覚変化、消化・吸収の不良などによって、思うように食事が摂れないというケースも少なくありません。

 このような食欲不振、食事量の減少は、栄養障害をもたらし、体重の減少、そして病的な「やせ」へとつながります。

〇栄養を十分に摂っているのにやせる――がん悪液質

 ところで、がんと体重減少をめぐって、最近注目されている病態があります。栄養を十分に摂っているにもかかわらず、どんどん体重が減り、やせが進行する「がん悪液質」という状態です。

 肺がんや消化器がんの患者さんでは、進行がんと診断された時点で、約半数近くに、がん悪液質が認められると言います。がん悪液質が進むと、全身状態が悪化して、化学療法などの治療効果にもマイナスの影響を与えます。

 原因はまだよくわかっていませんが、がん細胞が放出するサイトカインなどによって、先に述べた代謝異常や骨格筋の減少が起こるためと考えられています。

<やせるのは、なぜ問題か?>

 

 がん患者さんがやせやすいことは、ここまでの説明で理解いただけたと思います。では、なぜやせることが問題なのでしょうか。

 栄養不良でやせると、筋肉量が減少し、全身のタンパク量が減ります。タンパク質は、身体の組織や免疫に関わる物質の材料になるので、それが少なくなると体力や免疫機能が低下し、がんの進行を促進するだけでなく、感染症などが起こりやすくなるのです。

 実際、がん患者さんの死にいたるまでの栄養障害について調べたところ、がんそのものの進展による栄養障害(がん悪液質)で亡くなった方は2割に過ぎず、8割の方は必ずしもがんによるものではなく栄養不良に伴う感染症など、別の原因で状態が悪くなり死亡していた、というデータもあります「『がん』では死なない『がん患者』―栄養障害が寿命を縮める」(東口髙志著 光文社新書)。

 言うまでもなく、免疫は外敵から身を守る重要な防御システムです。しかし、栄養障害があると免疫機能は低下し、健康な人なら何でもない弱い菌でも感染し、重症化しやすくなります。がん患者さんでは、それがいっそう顕著に表れるのです。

 もちろん、免疫はがん細胞とも必死に戦っていますから、その低下は、がんの進展を促し、再発・転移も起こしやすくします。

<がん患者さんに必要な栄養は?>

〇タンパク質で筋肉を守る

 がん患者さんにとって、栄養不良、栄養障害は大きなリスクです。それを防ぐためには、どのような栄養が必要なのでしょう。

 基本は、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルが不足しないようにバランスよく摂ること。なかでも、積極的に摂取したいのはタンパク質です。

 患者さんでは、代謝異常によってタンパク質の分解が進んでいます。また、がん細胞によるエネルギーの消費が大きくなり、糖が使い果たされると代わりにタンパク質がエネルギー源として使われます。しかも、タンパク質は糖や脂肪と違って、余剰分を備蓄できないため、筋肉からどんどん引き出されて、筋肉量が減り、体重減少を招きます。さらに血液中のタンパク質が減ると、免疫細胞を作れなくなり、免疫機能が低下します。

 これを防ぐためには、タンパク質の補給が欠かせません。とくに、タンパク質を構成するアミノ酸の1つBCAA(分岐鎖アミノ酸)は、筋肉中のタンパク質が分解されるのを抑えるとともに、筋肉の合成をサポートする働きがあります。

 BCAAは、牛肉、レバー、牛乳、鶏肉、チーズなどに多く含まれています。体内では合成できない必須アミノ酸ですから、筋肉そして免疫機能を守るため、十分に摂取したいものです。

 このほか、卵、魚、豆腐、納豆、ヨーグルトなどの食品もタンパク質を多く含んでいるので、毎日のメニューに加えましょう。

〇エネルギー摂取は健康な人より多めに

 タンパク質と同様、大事なのが十分なエネルギーの摂取です。

 がん患者さんの場合、がん細胞自体がエネルギーを大量に消費しますし、身体もがんと闘うためにエネルギーを必要とします。

 通常、エネルギーの消費が大きくなり、飢餓状態になると、体力を温存するためセーブモードがかかり、エネルギーの消費が抑えられます。

 しかし、がんがあると、飢餓状態になってもセーブモードがかからず、大量のエネルギーが消費され続けます。この状態を放置しておくと、あっという間に、栄養障害が進み、やせ細ってしまいます。これを防ぐため、エネルギーをしっかり補給することが重要です。

 1日に必要なエネルギー量は「基礎エネルギー量(キロカロリー)×活動係数」で求められます(表)。

 例えば、55歳の男性で、基礎代謝量が1,400キロカロリー、活動係数が1.2(デスクワーク)とすると、必要エネルギー量は1,680キロカロリーとなります。がん患者さんの場合は、それにストレス係数として1.1~1.5程度の数値をかけますから、健康な人よりやや多めになります。

 エネルギーを多く摂るには、ご飯やパンなど糖質を含む食品が必要です。また、少量でも高エネルギーのものをこまめに食べることで、エネルギー量を補えます。ただ、タンパク質や脂質にもエネルギーが含まれていますから、それらも計算に入れ、糖質の量を決めるといいでしょう。

 なお、糖質については、かえってがんの増殖を促すのではないかと心配される方もいると思います。

 しかし、それは誤解です。がん細胞は身体からどんどんエネルギーを奪っていきます。失われた分を補給しないと、身体は瞬く間に栄養障害をきたし、時に著しい貧血まで惹起されます。また、がんの進展は早まります。この連鎖を断ち切るため、適量の糖質による栄養補給はとても大事なのです。

〇ビタミンもきちんと摂る

 タンパク質や糖質、脂質を十分に摂っても、それが身体の中でうまく利用できなければ、栄養にはなりません。その利用を助けるのがビタミンやミネラルです。

 がん患者さんでは、タンパク質や糖質の代謝異常がみられます。その上、ビタミンやミネラルが不足すると、代謝はいっそう低下してしまいます。化学療法や手術を受けられますと、侵襲が加えられ多くのビタミンやミネラルが欠乏しがちになります。とくに、ビタミンB1は欠乏しやすいので注意が必要です。ビタミン類の中で、筋肉を守るという観点から、今とくに注目されているのがビタミンDです。ビタミンDはカルシウムを運搬し、骨の合成に関与することが知られていますが、最近になって筋肉の合成も促すことがわかってきました。ビタミンDは魚介類、卵、キノコ類などに多く含まれています。取材・文●「がんサポート」編集部

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