膵臓がんの基礎知識
膵臓がんとはどんな病気なのか、症状、罹患率、生存率など基礎知識を紹介します。
膵臓がんとは
膵臓は、胃の裏側にあり横に細長い形状をした消化器です。膵臓は、食物の消化を助ける膵液や、血糖値を調節するインスリンなどのホルモンを分泌します。体の右側から膵頭部、体部、膵尾部の3つの部分で構成されており、膵臓全体に「膵管」という細長い管が網目状に走っています。膵臓で作られた膵液は、主膵管という1本の管に集まり、十二指腸に分泌されます。
膵臓がんの多くは、膵管の細胞ががん化して発症します。78%が膵頭部に、22%が膵体部に発生します。
膵臓がんの症状
初期症状は、腹痛、腰背部痛、黄疸、体重減少などです。膵臓がんと診断される約半年前から腹部の違和感を認めたという患者さんは、25%程度います。膵頭部にがんが発生した場合、黄疸症状がみられることが多く、膵体部にできたがんより早期に発見される傾向があります。また、膵臓がん患者さんの約60~80%で糖尿病が認められます。糖尿病と診断された2年以内に膵臓がんと診断されることがあり、4~5%の患者さんでは、糖尿病の増悪がきっかけで膵臓がんが見つかっています。
膵臓がんの罹患率と生存率
国立がん研究センターのがん統計2023年によると、2019年に新たに膵臓がんと診断された人は4万3,865人でした。男女ともに50代後半から徐々に増え始め、年齢とともに増加傾向がありました。2021年に膵臓がんで亡くなった人は、3万8,579人でした。
2009年~2011年に何らかのがんと診断された人全体での5年相対生存率は、64.1%でした。一方、膵臓がんに限って見ると、5年相対生存率は8.5%で、全体よりも低い状況でした。2009年に膵臓がんと診断された人の10年相対生存率は、6.7%でした。
膵臓がんの進行度による5年相対生存率(2013~2014年診断)は、以下の通りです。
- ステージ1:51.8%
- ステージ2:22.9%
- ステージ3:6.8%
- ステージ4:1.4%
膵臓がんの進行度による10年相対生存率(2009年診断)は、以下の通りです。
- ステージ1:35.1%
- ステージ2:14.4%
- ステージ3:2.7%
- ステージ4:1.0%
※各がんのがん罹患率、生存率の最新情報は、がん情報サービス「がんの統計」をご参照ください。
膵臓がんのリスク要因
膵臓がんのリスク要因は、「家族歴」「特定の原因遺伝子」「生活習慣病」「膵臓疾患」「嗜好品」「職業」などがあります。
家族歴
膵癌診療ガイドライン2022年版によると、膵臓がん患者さんの5~10%は、膵臓がんの家族歴があると記されています。また、近親者の膵臓がん患者さんが多いほど、膵臓がんの発生リスクは増加し、1人では4.5倍、2人では6.4倍、3人以上だと32倍とされ、さらに50歳未満で発症した近親者がいる場合は、9.3%まで上昇すると記されています。
原因としてBRCA1/2、PALB2、CDKN2A、LKB1/STK11、PRSS1、ATMなどの遺伝子変異との関連性が考えられています。
膵臓がん以外でも胃がん、卵巣がん、大腸がん、卵巣がん、乳がん、肺がんなどの患者さんが近親者に多いという報告があります。
膵臓がんに関連する遺伝性腫瘍症候群
家族歴や既往症などから膵臓がん発症の遺伝性リスクが疑われる場合は、遺伝学的検査が提案されます。
膵臓がんリスクが高い遺伝性腫瘍症候群には、「ポイツ・ジェガース症候群」「遺伝性膵炎」「家族性異型多発母斑黒色腫症候群」「遺伝性乳がん卵巣がん」「リンチ症候群」「家族性大腸腺腫症」などがあります。
膵臓がんに関連する遺伝性腫瘍症候群一覧
疾患 | 遺伝子 | 発生率 |
ポイツ・ジェガース症候群 | STK11/LKB1 | 11~29%(70~80歳) |
遺伝性膵炎 | PRSS1 | 23~44%(70歳) |
家族性異型多発母斑黒色腫症候群 | CDKIN2A/p16 | 17%(75歳) |
遺伝性乳がん卵巣がん | BRCA1 BRCA2 | ー 4%(70~80歳) |
リンチ症候群 | MMR遺伝子 | 4% |
家族性大腸腺腫症 | APC | ー |
生活習慣病
2型糖尿病や肥満は、膵臓がんのリスク要因です。膵癌診療ガイドライン2022年版によると、2型糖尿病患者さんの膵臓がんの発生リスクは1.7~1.9倍と記されています。特に新たに2型糖尿病と診断された患者さんや、急激に糖尿病の増悪が認められた患者さんで、膵臓がんが発見されることがあります。
肥満の指標となるBMI値が高いと膵臓がんの発生リスクが高くなります。膵癌診療ガイドライン2022年版によると、男性ではBMI値35以上で1.5倍、女性ではBMI値40以上で2.8倍と発生リスクが増加すると記されています。
膵疾患
慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍、膵嚢胞などの膵疾患は、膵臓がんのリスク要因です。膵癌診療ガイドライン2022年版によると、慢性膵炎の膵臓がん発生リスクは13.3~16.2倍と記されています。膵管内乳頭粘液性腫瘍は、膵臓に発生する神経内分泌腫瘍の1つです。膵臓がんとは異なる疾患とされていますが、膵臓がん発症の基となる可能性があります。また、CTやMRIの画像診断で膵嚢胞と診断された場合、膵臓がんの発生リスクは、膵嚢胞がない人や一般人口の約3~22.5倍、軽度膵管拡張が認められる人では、6.4倍と記されています。
嗜好品
喫煙や飲酒は、膵臓がんのリスク要因です。膵癌診療ガイドライン2022年版によると、喫煙による膵臓がんの発生リスクは1.7~1.8倍で、1日の喫煙本数や喫煙期間に相関して増加し、禁煙してからの期間が長いほど減少していたと記されています。また、1日にビール中ビン2本弱程度(準アルコール量37.5g)の飲酒をする人の膵臓がん発生リスクは、中等量程度量以下の飲酒の1.1~1.3倍増加すると記されています。
職業ほか
このほかにも塩素化炭化水素の暴露の可能性がある職業、血液型、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)、胃潰瘍の既往、B型肝炎ウイルス感染でも発生リスクが高くなるという報告があります。膵癌診療ガイドライン2022年版によると、膵臓がんの発生リスクが、胆石がある場合は1.7倍、胆のう摘出歴がある場合は1.3倍になると記されています。
参考文献:
日本膵臓学会 膵臓がん診療ガイドライン改訂委員会編.膵癌診療ガイドライン2022年版.金原出版
がん情報サービス.冊子「がんの統計」2023