膵臓がんの再発・転移
膵臓がんの経過観察、再発や転移に対する治療法、支持療法(緩和ケア)を紹介します。
膵臓がんの経過観察
膵臓がんの手術後に再発が起こる場合の多くが術後2年以内に起こっています。そのため、術後最初の2年間は3~6か月ごと、それ以降は6~12か月ごとに最低5年間の経過観察が行われます。膵癌診療ガイドライン2022年版では、5年目以降も6~12か月ごとの経過観察を継続することが望ましいとされています。
膵臓がんの再発・転移に対する治療
一次治療後に進行・再発・転移が認められた場合は、化学療法が行われます。膵癌診療ガイドライン2022年版によると、一次化学療法でゲムシタビンによる治療を受けた場合は、5-FU+レボホリナート+イリノテカン(リポソーム)併用療法、FOLFIRINOX、S-1単独療法のいずれかが選択されます。一次治療が5-FU関連の治療薬だった場合は、ゲムシタビンまたはゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法が治療候補とされています。高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)と腫瘍遺伝子変異量高スコアの膵臓がん患者さんでは、免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブによる治療も提案されます。NTRK融合遺伝子が認められた場合は、エヌトレクチニブまたはラロトレクチニブによる治療が検討されます。
膵癌診療ガイドライン2022年版によると、手術後に残った膵臓に再発が認められた場合は手術が提案され、肺転移に対しては適応を慎重に見極めて手術を行うことが提案されます。一方で、肝転移などその他の転移に関しては手術を行わないことが提案されます。
また、痛みがある骨転移に対しては、放射線治療が推奨されています。局所再発、所属リンパ節への転移、肺転移に対しては、予後改善効果が期待できるため、放射線治療を行うことが提案されます。肝転移に対しては予後改善効果が認められていないため放射線治療を行わないことが提案されます。
膵臓がんの支持療法(緩和ケア)
膵臓がんでは、がんの進行、治療の副作用や合併症などによって、さまざま症状が現れます。こうした症状を軽減するために支持療法(緩和ケア)が行われます。支持療法は、つらい症状や副作用などを軽減させ、生活の質を上げるために行われる治療です。がんが進行してから始める治療ではなく、がん治療中の痛みや症状に対して適宜行われます。
ステント療法
胆道が閉塞して黄疸の症状がある切除不能な膵臓がん患者さんに対しては、超音波内視鏡を使った消化管内からアプローチする「胆道ドレナージ」が行われます。胆管の中に「ステント」という器具を十二指腸乳頭部から胆管の塞がっている部分に入れ、胆汁の流れを回復させます。胆汁はステントの中を通り、十二指腸に流れて行きます。ステントには、プラスチック製と金属製があります。金属製ステントは網目状で、細くたたまれた状態で胆管に入れてから広げます。黄疸の症状軽減だけでなく、予後やQOLの改善が期待できる治療です。
精神的苦痛の緩和
がんの進行とともに精神的な苦痛(心の痛み)を伴う患者さんや家族がいます。心の痛みは、うつ症状や不安だけでなく、仕事、経済的な問題、生活などさまざまです。こうした心の痛みに対するケアは、患者さんや家族の療養生活の質や治療継続にも関係するため大切です。そのため、複数の専門職が連携した緩和ケアチームによるサポートが行われます。
上腹部や背部痛の緩和
上腹部や背中に痛みがある患者さんに対しては、非オピオイド鎮痛薬やオピオイド鎮痛薬による疼痛治療が行われます。オピオイドは、麻薬性鎮痛薬です。痛みが弱いうちは非オピオイド鎮痛薬が使われます。非オピオイド鎮痛薬には、炎症を抑える「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」と炎症を抑える作用がない「アセトアミノフェン」があります。消化性潰瘍や、腎機能障害、出血傾向がある患者さんには、NSAIDsは使われません。
非オピオイド鎮痛薬やオピオイド鎮痛薬でも十分な効果が得られない場合は、鎮痛補助薬が使われます。
上腹部の痛みに対して、「腹腔神経叢」という神経をブロックすることで痛みを抑える疼痛治療も選択の1つとして検討されます。腹腔神経叢ブロックは上腹部の痛みを緩和するとともに、オピオイド使用量を低下させる可能性があると考えられています。
運動療法
運動療法は、膵臓がんの手術後のリハビリの1つとして行うことが提案されています。手術後に運動療法を行っても、有害事象の頻度は変わりがない一方で、身体機能やQOLの改善などが得られるという研究報告があります。
参考文献
日本膵臓学会 膵臓がん診療ガイドライン改訂委員会編.膵癌診療ガイドライン2022年版.金原出版