去勢抵抗性前立腺がんで進化する個別化治療、患者さんに合わせた薬の使い分けと切り替えのタイミングとは

上村博司先生
監修:横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科教授 上村博司先生

2018.1 取材・文:町口 充

 前立腺がんは男性ホルモンのアンドロゲンの刺激により増殖するため、男性ホルモンの分泌を抑える(去勢)ホルモン療法が有効です。しかし、手術で精巣を摘出したり、薬剤によるホルモン療法などをしても病状が再び悪化することがあります。これを去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)といいます。CRPCに対する治療薬には、現在、5種類ほどがあり、副作用やそれまでのホルモン療法の効果などを考慮して患者さん1人ひとりに合わせた個別化治療が進んでいます。

初期治療のホルモン療法が効かなくなったときの治療選択とは

 前立腺がんは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモンのアンドロゲンによって増殖する性質があります。ホルモン療法(内分泌療法)は、アンドロゲンが働かないようにして前立腺がんの増殖を抑える治療です。

 代表的な治療法は、LH-RH(GnRH:性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アゴニストの注射製剤と、経口薬の抗アンドロゲン薬を併用する方法です。LH-RHアゴニストは、脳の下垂体に作用してアンドロゲンが作られないようにする薬です。局所進行がんや転移のある場合、また、高齢で手術ができない患者さんに対しても有効な治療法となっています。

 しかし、この治療法は、続けていくうちにやがて薬の効果が弱まり、がんが再び勢いを増してきます。これが、CRPCという病態です。CRPCの基準は、初回ホルモン療法によって、血中のPSA(前立腺特異抗原)値が下がった後に再び上昇した場合、またはPSAが1.0(ng/ml、以下単位略)以下まで低下していたときは連続する3回の検査で1.0を超えた場合とされています。

 ホルモン療法の効果が弱まっていく理由については、いろいろな原因が考えられていますが、代表的な原因は、アンドロゲン受容体(AR)の遺伝子異常です。前立腺がんは、アンドロゲンを受け取るための受け皿としてアンドロゲン受容体をもっており、アンドロゲンによる刺激で成長し増殖します。抗アンドロゲン薬は、アンドロゲンよりも先にこの受容体と結合してアンドロゲンをブロックすることにより、効果を発揮します。 ところが、受容体に異常があると抗アンドロゲン薬のブロックが働かず、むしろ受容体を活性化させてがん細胞とアンドロゲンの結合を促進します。このほか、がん抑制遺伝子やDNA修復遺伝子、その他の遺伝子異常による影響も指摘されていますが、アンドロゲン受容体の異常が去勢抵抗性前立腺がんの原因の6割を占めているといわれています。

 CRPCは、転移がある症例に多くみられ、初回治療としてホルモン療法を開始してから2~3年後には、転移症例の約7割でホルモン療法が効かなくなり、CRPCになるといわれています。また、転移がなくても少なからずの症例でCRPCになることがあります。

ホルモン療法開始後すぐにPSA値が上昇してくる場合の治療

 ただし、初回ホルモン療法を開始してPSA値が上昇してくることがあります。この原因の1つとして、抗アンドロゲン薬がアンドロゲンと同様の働きをしてしまい、がんの増殖を招いたことが考えられます。そのため、早期にPSA値が上昇した場合には、いったん抗アンドロゲン薬の投与を中止して様子をみるという方法がとられます。中止の目安は、PSAの最低値が1.0以下であることと併せて、PSA値の上昇速度も勘案して検討されます。この際、LH-RHアゴニストの注射製剤のほうは継続します。

 その後、3か月ほど様子をみて、それでもPSAの上昇が続くようなら、初回治療時とは別の抗アンドロゲン薬の投与を行います。これを抗アンドロゲン薬交替療法といいます。これも4~6か月ほど投与しても効果が続かない場合には、CRPCと診断されます。

初回ホルモン療法の奏効期間が12か月以上なら新規抗アンドロゲン薬、以下なら抗がん剤

 CRPCに対しては、抗がん剤による全身化学療法、または新規の抗アンドロゲン薬による治療を行います。

 CRPCの治療薬として現在の日本では、5つの薬剤が承認されています。抗がん剤ではドセタキセル(製品名:タキソテール)、カバジタキセル(製品名:ジェブタナ)の2剤、抗アンドロゲン薬ではエンザルタミド(製品名:イクスタンジ)、アビラテロン(製品名:ザイティガ)の2剤、そして、放射線治療薬のラジウム223(製品名:ゾーフィゴ)です(表・図)。

 骨やリンパ節など他臓器への転移があり、初回のホルモン療法の奏効期間が12か月以下だった症例では、抗がん剤のほうが抗アンドロゲン薬よりも有効とされているため、ドセタキセルとカバジタキセルを使います。 一方、初回のホルモン療法の効果が12か月以上続いた症例では、他臓器への転移の有無にかかわらず、エンザルタミドまたはアビラテロンによる治療となります。

 抗がん剤は先にドセタキセルを使い、効果が弱まったときにカバジタキセルを使います。ドセタキセルは、海外で行われた大規模臨床試験の結果、CRPCの患者さんの生存期間を延ばすことが証明され、日本でも2008年から前立腺がんへの適応が認められています。

 カバジタキセルは2014年に承認された薬で、ドセタキセルによる治療後の患者さんに対して生存期間の有意な延長が確認されています。カバジタキセルはドセタキセルが効かなくなった症例に使われるように開発されたものであり、化学療法未治療の前立腺がんに対する有効性、安全性は確立していません。

 抗がん剤の副作用には特に注意が必要です。ドセタキセルでは悪心・嘔吐などの消化器症状、骨髄抑制による好中球減少、貧血、脱毛、爪の変化、むくみなどの副作用があります。また、カバジタキセルでは好中球減少などの骨髄抑制、発熱性好中球減少、下痢などの副作用があり、特にカバジタキセルの場合は重篤になるケースもあり要注意です。

表:去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の治療薬

  一般名(製品名) 投与法 副作用など
抗アンドロゲン薬 エンザルタミド
(イクスタンジ)
経口 高血圧、疲労感。痙攣性発作、脳梗塞などの既往のある患者さんで強い発作が現れることがある
アビラテロン
(ザイティガ)
心疾患、糖尿病の合併症を悪化させる場合がある。肝機能障害。プレドニンを併用する
抗がん剤 ドセタキセル
(タキソテール)
点滴 悪心・嘔吐、脱毛、骨髄抑制、末梢神経障害
カバジタキセル
(ジェブタナ)
骨髄抑制、発熱性好中球減少症、下痢
放射線治療薬 ラジウム223
(ゾーフィゴ)
静脈注射 貧血、血小板減少、骨痛、下痢など

図:去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の薬物治療
去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の薬物治療
横浜市立大学附属市民総合医療センター資料より作成

抗アンドロゲン薬の2剤、エンザルタミド、アビラテロンの選択基準は

 抗がん剤に関しては使用の順序が確立していますが、抗アンドロゲン薬のエンザルタミドとアビラテロンの使い分けは、定まっていません。両方ともCRPCに効果があるとして2014年から日本で使えるようになった薬です。どちらを先に使っても生存期間は変わらないとのデータがありますが、それぞれの薬で現れる副作用には違いがあり、これが薬を使い分けるときの判断の目安の1つとなっています。

 例えばエンザルタミドは、てんかんなど痙攣性発作の既往がある患者さんや、脳梗塞の既往のある患者さんでは、副作用としてまれに強い発作が現れることがあるため、使いにくい薬です。こうした既往がある患者さんにはアビラテロンを優先します。

 一方、アビラテロンの副作用としては、これもまれにですが心筋梗塞、狭心症、心不全など心疾患の原因になったり、糖尿病を悪化させることがあります。そのため、これらの合併症をもつ人にはアビラテロンは使いにくいため、エンザルタミドを選択することになります。

 また、エンザルタミドは、高齢者に投与すると消化器症状が比較的出やすいといわれています。一方、アビラテロンはプレドニゾロン(製品名:プレドニン)というステロイド薬と併用するため、ステロイドの効果によって高齢者にはQOL(生活の質)に利点が見込めるといわれています。 PSAの下がり方については、2剤に違いがみられます。比較的早くPSA値が下がるのがエンザルタミドで、比較的ゆっくりと効果を現すのがアビラテロンです。したがって、PSA値が非常に早く上昇するような症例にはエンザルタミドを優先して使う場合もあります。

 エンザルタミドかアビラテロンによる治療を続けていて効果が弱まってきた際には、抗がん剤による治療を行います。全身状態が悪くなければ、ドセタキセルによる治療を行っていくのが一般的です。

 このようにみていくと、それぞれの患者さんに出やすい副作用や病気のタイプ、あるいはQOLの問題も含めて、患者さん1人ひとりの違いを考慮した個別化治療が行われているのがCRPCの治療だといえます。

骨や他臓器への転移をチェックし、治療を替えるタイミングを逸しないことが大切

 ただし抗アンドロゲン薬の使い方では、エンザルタミドかアビラテロンを使っていて、どちらかが効果がなくなったらもう一方の抗アンドロゲン薬を使う、ということはありません。その理由は、あまり長く抗アンドロゲン薬を使い続けていると、抗がん剤を使う時期を逸してしまうためです。

 前立腺がんは高齢者に多い疾患で、初発の平均年齢は約70歳であり、CRPCになる平均年齢は約75歳です。抗アンドロゲン薬を長く続けていると、転移が進んだり、副作用が重くなったり、全身状態が悪化してしまい抗がん剤を使うチャンスがなくる可能性があります。

 前立腺がんの治療で大切なことはタイミングです。前立腺がん治療では逐次療法といって、ホルモン薬などの治療薬が効かなくなると次の治療薬というふうに治療を変えていくのが一般的ですが、どのタイミングで薬を替えるかはケースバイケースです。それだけに替える時期を逸しないことが重要になってきます。

 転移がある場合の治療もタイミングが重要です。CRPCになると約8割の人で骨転移が起こります。骨転移のあるCRPCに対しては、2016年からα線による腫瘍縮小効果があるラジウム223という薬が使えるようになりました。これは、前立腺がんの骨転移に対する治療薬としては初めて、生存期間を延ばすことが示された薬です。

 しかし、使用が始まって間もないこともあり、ゾーフィゴをどのタイミングで投与すべきか、抗アンドロゲン薬や抗がん剤とどう使い分けるかなどについて、まだ結論が出ていないのが現状です。アビラテロンやエンザルタミドなどとの併用も検討されていますが、今のところはそれらの薬をまず使って、それが効かなくなってPSA値が上がり、骨転移も進むようになったら使うというのがよいようです。

 また、治療中はPSA値の定期的なチェックが欠かせませんが、あまりにPSA値にとらわれすぎないことも大切です。CRPCの場合、治療の推移をチェックする際に重要なのはむしろCTや骨シンチグラフィなどの画像です。骨や他臓器への転移について3か月に1回程度の画像診断によるチェックが推奨されます。また、痛みなどの症状も重要なチェックポイントになります。PSA値が落ち着いていても、画像診断で骨転移が進んでいたり、肺や肝臓などへの転移が起こっていることもあります。このような場合、PSA値とは関係なく病勢が進んでいるのですから、治療法を変えていく必要があります。

 治療選択にあたっては、医師と患者さんとのコミュニケーションが欠かせません。主治医とよく話し合い、それでも選択に迷ったらセカンドオピニオンを考慮してもいいでしょう。新規薬剤の開発も進んでいますから、あきらめることなく治療を続けてほしいものです。

プロフィール
上村博司(うえむらひろじ)

1985年 横浜市立大学医学部卒業。同学研修医
1987年 横浜市立大学医学部泌尿器科入局
1992年 米国ウィスコンシン大学医学部がんセンター留学
1995年 横浜市立大学医学部泌尿器科
2016年 横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科教授

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