自分にがんは関係ないと思いがちな人へ、がん検診の大切さに気付くきっかけに

大井さん
認定NPO法人 がんサポートコミュニティー事務局長/プログラムディレクター 大井賢一さん

がんになることは誰にでも起こること

 「誰かに起こりうることは、誰にでも起こりうる」

 これは、「人生の短さについて」の著者・セネカが引用したローマ初期の政治家プブリウスの言葉です。この言葉に触れたとき、がんと診断されることで引き起こされる精神的ダメージは、誰にでも起こりうることで、決して特別なことではないのだと語りかけられたような気がしました。

 予期せぬがん告知や治療による副作用をきっかけに精神的ダメージを受けている患者さん、自覚のないまま不眠や動悸に悩んでいる患者さんなど、がん患者さんの心の問題に起因する症状はさまざまです。セネカは、「幸福な生とはみずからの自然に合致した生のことであり、その生を手に入れるには、精神が、第一に健全であり、その健全さを永続的に保持し続ける精神であること、次には勇敢で情熱的な精神であること、さらに見事なまでに忍耐強く、時々の状況に適応し、己の肉体と、肉体に関わることに気を配りながらも過度に神経質になることなく、また、生を構築するその他の事物に関心を寄せながらも、そのどれ一つをも礼賛することなく、自然の賜物を、それに隷属するのではなく、用に供する心構えであること以外に道はない」と述べています。がんと上手に付き合うために精神が健全であることは大事です。「人生の短さについて」は、精神の健全さを維持していくためにはどうすればよいのかと、改めて普段の生活のなかで考えさせてくれます。

 私は、二十数年前の大学生の時に、哲学の授業の課題で本書(旧約)を読み、とても大きな感銘を受けました。私に限ってのことかもしれませんが、学生時代に、ただ自分が理解できなかった、理解しようとしなかった結果、つまらない講義と決めつけ、講義中に睡魔に負けてしまうことがありました。その行為は、セネカに言わせれば「何と人間の可死性を忘れた愚劣なことではないか」でしょう。つまり、人生は短いのではなく、私が浪費していたのかもしれないと、当時を思い返すと反省するばかりです。

 がん患者支援に携わるようになってからのことを考えると、当時は、講義終了の90分後に必ず起きられるという、不確かな自信に裏打ちされたものだったと思えてなりません。再発や転移を繰り返す、治療の選択肢が残されていないなど、厳しい状況にあるがん患者さんでは、時に「寝てしまうと目覚めないかもしれない」という恐怖に襲われ、眠れない日々を過ごすこともあります。そのような話を聞き、当時のことを強く認識させられました。

 冒頭で紹介した言葉を踏まえて、「今の自分にがんは関係ない」ではなく、生涯のうちに2人に1人ががんに罹る時代となった今、「がんになることは誰にでも起こること」と胸に刻み、時間を浪費しない生活を心がけたいと思います。自分にがんは関係ないと思いがちな“がん予備群”となる可能性を持った若い世代の方に、がんが自らの人生にどんな影響を及ぼし得るか、がんが未だ予防できない今日にあって、早期発見するための「検診受診」の大切さに心寄せていただくために、手に取っていただきたい一冊です。