製薬会社の「利潤追求」と「社会的使命」の“調和”という永遠のテーマを取り上げた作品

大井さん
認定NPO法人 がんサポートコミュニティー事務局長/プログラムディレクター 大井賢一さん

米・製薬会社で唯一の女性プロパー「シーリア」のサクセスストーリー

 「過失は知識の欠如ではなく、判断の誤りである…」

 これは、英国の哲学者ジョン・ロックの「人間悟性論」に出てくる文章です。小説「ストロング・メディスン」は、利潤追求のみを目的とした新薬開発競争を目の当たりにし、男性社会が持つさまざまな偏見や障壁と闘う米国の大手製薬会社で唯一の女性プロパー「シーリア」のサクセスストーリーです。

 シーリアの上司だったサムは、シーリアの才能をいち早く認め、シーリアを取り立てていました。やがて、サムは社長にのぼりつめ、「つわり」を軽減する薬モンテインに社運を賭けることとなります。シーリアは、モンテインの販売部長として販売の指揮を執ることになりました。2015年1月12日、国際労働機関(ILO)が発表した「Women in Business and Management: Gaining momentum」によると、女性管理職比率が最も高い国はジャマイカで59.3%、米国は15位で42.7%です。ちなみに、日本は11.1%で96位でした。本書は1950~80年代が舞台の作品なので、シーリアがいかに期待されていたかがわかります。

 しかし、医師であるシーリアの夫は、モンテインの妊婦への投薬に対する疑念を表わし、シーリアも疑わしきことが少しでもあれば発売すべきでないと考えます。結果的に、シーリアはサムと対立し、会社を去ることとなりました。そして、モンテインの催奇形性の問題が発覚すると、再びシーリアに脚光が集まります。

 ストロング・メディスンは、製薬会社における利潤追求と社会的使命の調和という永遠のテーマを取り上げています。本書を読み終えたとき、冒頭に紹介したジョン・ロックの言葉を思い起こすことでしょう。私たちは、今日の医療が利潤追求と社会的責任、それと並行して個人の欲望と倫理のバランスの上に成り立っていることを忘れてはならないのです。本書は患者さんやご家族に限らず、医療者や研究者、製薬企業の皆様にも読んでいただきたい一冊です。