「死で人生は終わる、つながりは終わらない」死を目の前にした大学教授の特別講義
死、家族、老い、金、結婚、愛、人生の意味を描いたノンフィクション
去る7月14日は、日本におけるがん患者支援のパイオニアである故竹中文良博士の命日でした。彼は日本赤十字社医療センターで消化器外科医としてがん治療に従事され、多忙な日々を送られていた1986年に大腸がんを患いました。その体験から「医者が癌に罹ったとき」(文春文庫)を著し、がん患者さんへのサポートのあり方を模索され、2000年に渡米しました。世界最大規模のがん患者支援団体のCancer Support Community(当時の名称:The Wellness Community)で、専門家によるがん患者さんとそのご家族に対する先駆的な心理社会的サポート手法を学びました。2001年には、私財を投じて日本にもそれを取り入れ、今日の日本におけるがん患者支援の礎を築いたのです。2010年、彼はニ度目のがん体験となる肝臓がんのため享年79歳で他界しました。
そんな彼の功績を思うなか、フッと思い出した名著が「モリー先生との火曜日」です。難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)となったモリー・シュワルツ教授が、死を前にしておこなった、かつての教え子でスポーツジャーナリストのミッチ・アルボムとの毎週火曜日の二人きりの講義。このノンフィクションは、1997年にアメリカで出版されベストセラーとなりました。
この本には、死、家族、老い、金、結婚、愛、人生の意味が描かれています。この本を読み進むなかで、明らかに死が迫ってくる状況で、人に対して、これほどまでに穏やかに接することができるだろうかと思いました。彼の数々の言葉が、単なる教訓としてではなく、彼の愛と優しさに満ちた語りによって心に染み入ってきます。
死を前にしたモリー先生は、教え子ミッチに語りかけます。「人に与えることで自分が元気になれるんだ。自分の時間を与え、悲しい思いをしていた人たちをほほえませることができれば、私としてはこれ以上ないほど健康になった感じがする」という言葉は、今日のがん患者支援としてのサポートグループや患者サロンで同じ境遇にある人たち同士の語り合いそのものです。この本にはフィクションでは描き得ない、疾患を超えて読者の胸に響く言葉がたくさん詰まっています。ちなみに、標題でご紹介した「死で人生は終わる、つながりは終わらない」は、モリー先生の死の直前13日目の講義に登場する言葉です。
がん+編集部より
筋萎縮性側索硬化症(ALS)のモリー教授による「人生の意味」についての講義
筋肉を動かす神経だけが障害を受けることで、手足や呼吸に必要な筋肉が使えなくなっていく難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)。「モリー先生との火曜日」は、ALSと宣告され、余命わずかなモリー・シュワルツ教授が、教え子のミッチ・アルボムへ「人生の意味」について講義する様子をえがいたノンフィクション作品です。
ミッチは、モリーの講義を受けるなかで、忙しい日常のなかで忘れかけていた大切なことを思い出していきます。誰もがいずれは迎える「死」の意味とは?人生を豊かにするために大切なこととは?死へ向かうミッチの言葉一つひとつが、優しく心に響く一冊です。