カフェで学ぼうがんのこと「子宮体がんと妊孕性(にんようせい)温存の可能性について」

提供:NPO法人ウィッグリング・ジャパン


津田 尚武先生
講師:久留米大学医学部産婦人科学講座 講師   津田 尚武先生

子宮頸がんと子宮体がんの違い

子宮頸がん:子宮頸部(入口)にできるがんで、ほぼ「ヒトパピローマウイルス」が原因。
子宮体がん:子宮内膜のがんで、女性ホルモンが関係している。

子宮体がんの原因

 厚くなった子宮内膜が剥がれ落ち排出されるのが毎月の生理です。

 内膜に何か異常があったとしても毎回剥がれ落ち流れていきますが、何らかの原因で内膜が厚くなったまま剥がれ落ちずに蓄積されていくとがん化していく可能性があります。生理不順や、排卵を伴わない出血など、生理周期が乱れていることは子宮体がんになる可能性があると考えられます。

 閉経が遅い人、50代後半で生理のある人、前がん状態のある人、妊娠・出産経験のない人、肥満、糖尿病やふくよかな人(→皮下脂肪から出るホルモンが関係します)は子宮体がんになる可能性があります。

若年性子宮体がんと子宮温存療法の条件

 子宮体がんのピークは50~60代ですが、妊娠・出産を考える40歳未満の「若年性子宮体がん」も年間500名ほど発症しています。

 子宮体がんの標準的治療は手術で子宮を摘出します。

 術後の回復や傷跡なども考え腹腔鏡手術や内視鏡手術が多いです。久留米大学病院ほか福岡県の3~4か所の病院では、第二世代の手術として、別の場所にいる技術者が操作して現場のロボットが動く手術があります。これらは保険診療になっています。

 未婚や妊娠希望の方は妊孕性(にんようせい)温存(妊娠する能力を維持する)の治療を検討します。

 子宮体がんの前がん状態(子宮内膜異形増殖症)の人も治療対象になります。(経過4年ほどで体がんに変化していくことになるたま)ただし、子宮温存療法が選択できるのは、がんが筋肉の中への入り込みが浅く子宮内膜だけに限局している初期の「ステージ1A」に限ります。

 子宮内膜の組織検査を行い、MRIやCT検査で他臓器への転移の有無や筋肉への入り込みの有無などを調べ、「ステージ1A」と診断されることが子宮温存療法の条件です。それ以上進行していると温存は勧められません。

 たとえ妊娠できたとしても転移などの可能性が大きいため、治療の原則適用を守ることが大切です。あくまでも子宮体がんの手術の根治は、子宮摘出です。

子宮温存の治療

 ステージ1Aであれば「MPA治療」というホルモンの内服薬の治療が適用されます。薬を26週間(半年)飲み続ける治療で脱毛はありません。

 2か月ごとに子宮内膜の検査を行いがんがなくなったら治療は成功、治療効果がなければ中止します。

 この治療で前がん病変状態であれば75%~85%、子宮体がんでは60%~75%の割合で治療効果が現れます。飲み薬でがんが治るのは画期的な治療ですが、この治療のゴールは妊娠することなので、妊娠を希望しない人は、再発が必ずあるのでこの治療を受けるべきではありません。あくまで、妊娠する期間を確保するための治療であり根本的治療ではありません。

温存治療のあと

 (1)「治療を終えたらすぐに妊娠したい人」と(2)「子宮は温存したがまだ妊娠の予定はない」という人でその後の対応は変わります。

 (1)の方は、なるべく早急に妊娠をし、子どもが生まれたら子宮摘出手術を受けます。再発が多いので早く妊娠することが大切で、自然妊娠を待つより不妊治療が勧められます。治療の後、妊娠に取り掛かるためには不妊センターや周産期センターがあるような総合病院や大学病院などで治療を行うとよいです。がん専門の病院で治療を受けた方は、高度な不妊治療を行う病院を紹介してもらうのがよいでしょう。

 (2)の方は、子宮体がんの再発がないか3~6か月ごとに内膜検査を続けます。ピルを服用し生理を起こし、薬の力で子宮内膜をはがすことで治療効果があります。日本全国でこの維持療法を受けている人の方が再発率は半減しています。

 MPA治療で効果がなければ悪性度の高いがんが隠れている可能性があるので、子宮卵巣の摘出が推奨されます。子宮体がんは治ったが卵巣がんになる人もいるので定期健診をしっかりうけ、妊娠が終わったら摘出手術を行うのがよいでしょう。

子宮体がんの原因

 糖尿病、肥満(BMI32~33)、排卵障害(排卵しにくい)、遺伝性疾患(リンチ症候群:血縁で3名以上の方が大腸がん、子宮体がん、小腸がん、腎盂がんに50歳未満の若年性で多発されている方)。

MPA以外の治療でなにか治療法はないか…?

 糖尿病ががんに関係しているのではないかということが研究で分かっています。

 糖尿病の治療薬メトホルミン(メトグルコ)ががんの経路をブロックするといわれており、MPA治療にメトホルミンを併用することが有用だと分かってきました。

 5割の再発率が2割ほどに抑えられています。久留米大学を含む全国8か所ほどの病院で試験を開始しており、患者数もまだ少ないので検討結果には数年かかり正確なことはまだ分かりませんが、大きな副作用もなく受けられる可能性があります。

参加者と先生の質疑応答

Q.子宮体がんは生理不順以外の初期症状ありますか?

A.年齢によって違いますが、閉経後は不正出血が症状です。若い人は生理との区別がつかないので診断難がしいです。早期は分かりづらいので生理不順、糖尿病、家族に遺伝性疾患がある方、肥満の方は、子宮体がん検診を受けることをお勧めします。子宮体がん検診は、子宮内膜が厚くない生理終了直後~1週間くらいに行なうのがよいでしょう。

Q.若い人の子宮筋腫や子宮内膜症も増えている印象があるのですが?

A.若いうちは妊娠に関係ないと産婦人科に行く機会が少ないですが、子宮頸がんの検査とともに1~2年に一度は産婦人科を受診する機会を持つとよいと思います。

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