16種類の遺伝子を解析してがんの予後予測、米臨床腫瘍学会で成果を発表

提供元:P5株式会社

16種類の遺伝子を解析することで、腎臓がんの予後(治療後の経過)を予測できるとの研究成果が、世界最大のがん関連学会である米臨床腫瘍学会(ASCO)の年次集会(6月2日から6日までシカゴで開催)で発表されました。

遺伝子の型から予測スコアを算出して、再びがんが発生するまでの期間が分かります

この研究成果は、フランスの研究者らが発表したものです(参考文献1)。
研究グループは、腎臓がん手術後の患者約200人を対象に試験を実施しました。

試験方法は次の通りです。 患者から採取した腎臓がんの細胞から抽出した全遺伝子のうち、16種類の遺伝子の型を解析しました。
その結果から、「予測スコア」を算出し、スコアの違いが予後にどのように影響するかを調べました。

その結果は、予測スコアの違いが予後に大きな影響を与える、つまり予測スコアにより予後を推定できるということが分かりました。
例えば、予測スコアが高いグループと低いグループを比較すると、がんを摘出してから再びがんが発生するまでの期間(再発期間)は、予測スコアが高いグループの方が4分の1も短かったのです。
また、再発するかどうかについても、予測スコアが高いグループは低いグループと比べて、再発リスクが約9倍高かったのです。

抗がん剤アファチニブが効くかも決まっています

遺伝子検査によりあらかじめ予後を予測できれば、手術により腫瘍を摘出した後、どの程度の抗がん剤治療を実施すればいいのか、あるいはどの程度の頻度で再発検査をすればいいかを見極められます。
患者に過剰な負担を課すことなく、無駄な医療費も減らせるというわけです。

今年のASCOでは、遺伝子型の違いにより抗がん剤が効くかどうかが決まっていることを示唆する研究成果も発表されました(参考文献2)。

米国の研究グループは、アファチニブという抗がん剤を使用した肺がん患者、約30人の治療成績を分析しました。
その結果、アファチニブにより腫瘍が顕著に縮小した患者の全てで、HER2遺伝子に共通の変異が認められたのです。

この研究はまだ被験者の数が少ないため、確定した事実と認めるには更なる研究が必要です。
しかし、あらかじめ肺がん患者の遺伝子型を解析して、HER2遺伝子にこの変異が入っていれば、まずはアファチニブを投与することで高い治療効果が期待できるようになる可能性があります。

遺伝子型の違いで有効性に差が出ます

腫瘍が特定の遺伝子型を持つ患者でしか有効性を発揮できないという特徴を持つ抗がん剤は、既に日本でもいくつかの製品が承認されています。

例えば、大腸がん治療薬のセツキシマブ(商品名アービタックス)は、KRASという遺伝子に変異が無い患者でしか有効性を発揮しません(参考文献3)。
KRAS遺伝子に変異がある患者に使ってしまうと、かえって病状が悪化することが分かっています。
そのため、セツキシマブを投与する前には、KRAS遺伝子を検査するのが常識となっています。

また、肺がん治療薬のクリゾチニブ(商品名ザーコリ)は、ALK遺伝子またはROS1遺伝子に変異がない患者以外には効きません(参考文献4)。
クリゾチニブの添付文書には、「ALK融合遺伝子陽性又はROS1融合遺伝子陽性が確認された患者に投与すること」と明記されており、投与前の遺伝子診断が義務づけられています。

このように複数の抗がん剤が、特定の遺伝子と紐付けられて承認されていますが、現時点ではあくまで特定の抗がん剤と特定の遺伝子の関係がベースとなっています。
しかし、来年以降、この状況が変わるかもしれません。
厚生労働省が、ゲノムシーケンスの保険収載を検討しているからです(参考文献5)。

厚生労働省も進めるゲノムシーケンス、自己負担30万~40万円程度で

現在、がん治療における遺伝子型の解析は、特定の遺伝子だけをピンポイントで対象にしています。
それに対してゲノムシーケンスでは、数百種類の遺伝子をまとめて解析します。
2003年に完了したヒトゲノム計画では、1人のゲノムを解析するのに、13年の歳月と約30億ドルの費用がかかりました。
しかし、その後のシーケンサー(ゲノムの塩基配列を読む装置)の急速な発展により、ゲノム解析にかかる時間、費用は幾何級数的に低下しました。
いまでは、期間は2、3週間、費用は数十万円でゲノム解析ができるようになっています。
研究目的だけでなく、臨床の現場にゲノムシーケンスを取り入れられる環境が、整ってきているのです。
自由診療として40万円から100万円程度の負担になっています。

厚労省は先進医療の制度を利用し、患者がシーケンサーによる遺伝子解析を受けられるようにしたい方針です。
これにより、患者の腫瘍の遺伝子型に対応した抗がん剤を、100種類以上の製品の中から選べるようになる見込みです(参考文献5、参考文献6)。

有用な遺伝子型が複数見つかれば、その分、使える抗がん剤が増える可能性もあります。
抗がん剤治療のあり方を一変させるポテンシャルを持つ技術と言えるでしょう。