「患者家計サポート協会」がん患者さんの「お金の不安」がなくなることを目標に

黒田ちはるさん
一般社団法人 患者家計サポート協会 代表理事 黒田ちはるさん

2024.9 取材・文 がん+編集部

 患者家計サポート協会は、がん患者さんのお金に関する不安やお悩みの解決を支援するための団体として2023年4月に活動を始めました。代表の黒田ちはるさんは看護師として約10年間勤務した経験があり、結婚を機に取得したファイナンシャルプランナー(FP)の資格を生かし、患者さんやご家族の相談に乗っているほか、全国のFPが患者さんの相談に応じることができるようオンライン講習会を開いています。活動について、黒田さんに詳しくお話を伺いました。

患者さんのお金の問題、看護師経験の中で目の当たりに

 私は看護師としてのキャリアが約10年あり、そのうち約2年はがん専門病院での勤務でした。生活のことなど、いろいろなお話を患者さんやご家族から聞いていたのですが、収入減・長期化する医療費負担といったお金に関するお悩みはほとんど共通でした。当時の私はお金のことに詳しくなかったため、うまく返答できず、すごくもやもやしていました。

 結婚を機に一度看護師の職を離れ、家庭の家計管理のためにファイナンシャルプランナー(FP)資格取得に向け勉強を始めました。住宅ローン、保険、年金など勉強を進めていくうちに、「あ、この知識ってあの時患者さんに教えてあげたかったな」ということがどんどん出てきました。ちゃんと勉強して、これを次の仕事にしようと考えるようになりました。

 資格取得後、看護師に一度復帰し、看護師とFPを両立できないかを模索したのですが、看護師の仕事をしている間に相談に応じるというのは難しく、2年ほどで退職。本格的に個人FP事務所を設立し、がんなどで病気療養中の方の家計相談を少しずつ受けるようになりました。次第に医療関係者からの問い合わせなども増えてきて、1人では対応が難しくなっていくことがわかってきたので、この協会を立ち上げました。

働き世代からの相談多、「家計まるごと相談できて助かる」の声

 協会の主な目的は、全国どこからでもがん療養中の方やそのご家族がFPにお金の相談ができる環境を整えることです。毎月千葉県の幕張エリアで開催している「ちばメディカルカフェ」という交流会・勉強会・相談会の開催はその取り組みの1つです。オンラインでの参加が可能なパートもありますし、無料個別相談会も行っています。

Japan Cancer Survivors Day
2024年6月、「Japan Cancer Survivors Day」
にブース出展

 40~50代の働き世代で、家計を預かっている女性からの、「傷病手当金がもう終わりそう…」というタイミングでのご相談は多いです。親の介護・子どもの進学・自身/家族のがん治療が重なって、どうしていいかわからない、といったご相談もあります。治療経過や内容、ご家庭の状況、お住まいの地域など、さまざまなことを考慮してアドバイスする必要があるので、丁寧にヒアリングするよう心掛けています。ご相談者からは、「保険や手当などの制度のことだけでなく、家計全体をみてアドバイスが受けられるので本当に助かっている」といった声をいただいています。

 「困ってから」ではなく、「がん治療開始のタイミング」で一度ご相談いただくのが理想だと思っていますので、がんに関わる多くの方に私たちの活動を広く知っていただくため、今年初めてがん関連のイベントにブース出展もしました。

FP向けの講習会、地域の実情に沿ったアドバイスができるように

 相談に対応できる FPを全国に増やしていく活動も同時進行で取り組んでいます。FPの有資格者を対象に初級~上級まで3コースを設定し、オンラインで受講できる仕組みにしています。数か月間かけて2~3人のFPさんが相談に応じることができるレベルになるといった状況です。高額療養費など教科書的なことから、患者さんからどのように話を聞き取ればいいのか、会話のコツなどもレクチャーします。関東・福岡を中心に徐々に受講者は増えています。

 お金の問題は地域によって考慮すべきことが異なります。例えば、日帰り通院で受けられる治療内容でも、北海道で冬場なら、交通事情をふまえて宿泊費用も検討しなければいけないことがあります。地域のFPによる地域の実情にあったアドバイスが可能となるよう、47都道府県に数人ずつでも、相談に対応できるFPを配置することが目下の目標です。

全国に活動の輪を広め、医療機関との連携も

 活動を始めた頃は、「FP=保険屋さん」というイメージからか、なかなか医療施設では聞き入れてもらえないこともあったのですが、最近は医療従事者からの相談、医療者向けの研修を実施させていただくこともあり、状況が変わってきているなと感じています。研修への参加者はソーシャルワーカーの方が比較的多くなっていますが、「がん治療の経済毒性」として、がん治療の経済的負担に起因するさまざまな問題を研究する方もいらっしゃり、医師の関心も高まってきているように感じます。

 全国的にがん患者さんのお金の相談に対応できるFPを増やし、直接病院や医療従事者との連携を強化することを目指しています。私たちの活動によって患者さんのお金の心配が少しでも減って、安心して治療を受けていただくことにつながってほしいなと思っています。

一般社団法人患者家計サポート協会 外部リンク

がん種 全般
地域 千葉県を中心に全国
連絡先 メール info@patient-support-fp.com
活動内容 がん治療の医療費や生活にかかるお金・制度の無料相談会や勉強会、メディカルカフェを通じ、全国の患者さんやご家族のお金の不安がなくなることを目標に取り組んでいるFPの非営利団体です。