大腸がんとの闘いと治験の決断―乳がん体験者の妻の支えと会社の理解で仕事にも復帰

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K.Tさん

体験者プロフィール
K.Tさん

性別:男性
年齢:55歳
がん種:大腸がん
診断時ステージ:ステージI、術後検査でIIIa、化学療法前検査でステージIV

 K.Tさんは、ステージIの大腸がんと診断され、術後検査でステージIIIa、さらに化学療法前のCT検査で肝臓への転移が見つかり、ステージIVに。痔かもと受診した1年数か月前には想像もしなかった大腸がんとの闘い、治験という選択をし、仕事に復帰するまでの1年あまりの体験を語っていただきました。

大腸がん告知―毎年便潜血検査を受けていたのに

 2017年12月、排便したときに、便器内にたまっている水に潜血が見られました。このときは「痔かな……」と思っていました。以前、痔になったことがあるので、また痔になったのかもしれないと思ったのです。12月にこのようなことが2回あり、2018年1月にも2回ありました。2月は出血がありませんでしたが、3月になると、また出血がありました。薬局で市販されている痔の薬を買ってきて使ってみましたが、よくなりません。妻に相談し、病院で一度診てもらったほうがよいだろう、ということになりました。

 血便で気になるのは大腸がんですが、大腸がんの検診は受けていました。当時、私は54歳。会社での健康診断は30代の頃からずっと受けていて、大腸がんの検診である便潜血検査も毎年受けていたのです。2日間の便を採取して、そこに血液が混入していないかを調べる検査です。この検査で異常が出たことはこれまでありませんでした。

 2018年4月、千葉県柏市にある肛門科で有名な病院で受診しました。診察を受けると、肛門の近くに大きなポリープがあって、検査をしないと悪性かどうかはわからないということです。肛門からカメラを入れる大腸内視鏡検査を受け、がんであるとの診断を受けました。がんがどのような状態であるかはわかりませんでしたが、ショックでしたし、不安な気持ちになりました。その病院でも手術はできるということでしたが、近くに国立がん研究センターの東病院があるので、そこで治療を受けることにし、紹介状を書いてもらいました。

 2018年5月、連休の狭間に国立がん研究センター東病院の大腸外科を受診。やはりがんとの診断でした。ただ、医師の話では、「あまり浸潤しているようには見えないので、ステージⅠくらいでしょう。たぶん手術で取れば治りますよ」ということでした。手術で治るだろうと言われ、少し心が落ち着きました。実は妻が10年ほど前に乳がんになって手術を受け、その後も薬の治療を続けていますが、ずっと元気に暮らしています。そのようなこともあって、手術を受けて治るのであれば、それでいいと思ったのです。

 ただ、患者が多いせいなのか、手術までかなり待つことになるとのことでした。待っている間に、CTとMRIの検査が行われました。

大腸がんの治療―術後検査でステージIがIIIa、IVに

 2018年6月、ようやく手術のために入院しました。入院したのが6月25日で、手術を受けたのが29日です。腹腔鏡下手術で、腹部に5か所の孔を開ける予定が、生まれつきの小腸の癒着が発覚し、6か所の孔を開けて直腸を切除する手術が行われました。肛門は温存し、仮設の人工肛門が作られました。まずはがんを切除する治療を行い、その後しばらくは人工肛門から排泄する生活を送って、状態が落ち着いてから大腸を肛門につなぐ手術を行う予定です。

 この日の手術では、がんのできている直腸部分の切除を行い、近くのリンパ節を12か所採取しました。このリンパ節を顕微鏡で観察して、リンパ節転移が起きているかどうかを調べるのです。その結果、2つのリンパ節に転移が見つかりました。

 がんは直腸の深くまでは浸潤していませんでしたが、リンパ節転移が見つかったので、ステージIIIaとなってしまいます。たぶんステージⅠだろうといわれていたので、この結果には驚きました。こんなことがあるとは思ってもいなかったのです。

 ステージIIIaだったので、手術後に再発を防ぐための抗がん剤治療が必要になるとの説明を受けました。抗がん剤治療は大変そうですが、「がんを治すためならしかたない」と気持ちを切り替えました。

 2018年7月、退院して、大腸外科から消化管内科に回されました。再発を予防する抗がん剤治療を受けるためです。

 8月に入ってから、消化器内科での最初の診察がありました。私が受ける抗がん剤治療は、ゼロックス(XELOX)療法という併用療法であると説明を受けました。カペシタビンとオキサリプラチンを併用する治療です。抗がん剤治療を開始する前に、念のために血液を調べておくとのことで、血液検査が行われました。その結果、数々の検査項目の中で、2つの腫瘍マーカーが異常値を示していたのです。CEAとCA19-9で、どちらも大腸がんがある場合に高くなることが多いのだそうです。「これはおかしいから、CTを撮って調べましょう」ということになりました。

 そのCT検査で、肝臓への転移が見つかりました。肝臓のいろいろな部位に、大小合わせて十数個の転移巣が見つかったのです。離れた臓器への転移が起きていれば、ステージⅣとなります。これは衝撃でした。最初はステージⅠだろうといわれていた大腸がんが、手術をしたらステージIIIaとなり、抗がん剤治療を前にしたCT検査でステージⅣに変わってしまったのです。

 調べてもらったところ、手術前の時点で撮ったCTには、肝臓の転移巣はまったく写っていませんでした。そのときすでに、CT画像には映らない程度の微小な転移が起きていたのかもしれませんが、手術を待っている間に転移してしまったのではないか、という疑問を感じました。

 ステージIVというのは、「末期」と同じような意味だと理解していましたから、死の宣告をされたような気分でした。医師の説明では、「大腸がんのステージⅣは必ずしも末期というわけではなく、薬物治療を受けることで長く生存する人も珍しくない」という説明を受けました。ただ、「このまま治療を受けなければ、まだ若いので進行の度合いを見るに6か月もたないかもしれない」ともいわれ、自分のおかれている状況を理解しました。

 ステージが変わってしまったので、抗がん剤治療も変わります。医師から提案されたのは、「ニボルマブの治験があるので、それに参加してみては」ということでした。ニボルマブ(製品名:オプジーボ)は肺がんの治療薬として話題になっていたので、薬の存在は知っていました。そのニボルマブの大腸がんへの有効性を調べる治験が始まっていたのです。

治験という選択-試験群ではなく対照群での治療に


写真はイメージです

 私が勧められた治験は、「転移性結腸または直腸がんを対象に、一次治療としてのニボルマブと標準治療の併用療法と標準治療を比べる非盲検探索的第II/III相試験」というものでした。転移がある大腸がんの患者を対象にして、ニボルマブと標準治療を併用するA群と、標準治療だけのB群に分け、両群を比較しようという試験です。

 医師からは、「A群とB群のどちらになるかはわかりませんが、たとえB群になったとしても、治験に参加しなければ標準治療を受けることになるのですから、この治験に参加することで不利益を被るようなことはありません」といわれました。確かにそれはその通りです。この治験は国際共同試験で、対象者となるには細かな条件を満たしている必要がありますが、私はそのすべてを満たしているのだそうです。「せっかく条件を満たしているのだから、参加してみたらどうですか」といわれ、参加する決心をしました。

 もちろん、治験に参加することが将来、ほかの患者さんたちのためになるということも、参加を決断した理由の一つです。それから、ニボルマブに対する期待感もありました。治験で使用する薬についてはコーディネーターから説明を受けたのですが、従来の抗がん剤とはまったく異なる作用機序をもつニボルマブに、大きな期待感を覚えました。この治験では、ニボルマブを使用するA群に66.7%、B群に33.3%を割り振ることになっています。A群になる可能性が高いし、B群になっても不利益を被ることはないわけです。コーディネーターから詳しく説明を受け、治験に参加することを決断しました。

 2018年9月、ようやく治療がスタートしました。治験に同意したのは8月でしたが、初回の投薬が行われたのは9月5日になってからです。治験のために行わなければならない検査などがあったせいでもあると思いますが、がんがあるにも関わらず待っていなければならないのは、精神的に苦痛でした。

 残念なことに、私が振り当てられたのはB群でした。標準治療はFOLFOX+ベバシズマブ療法です。FOLFOXは、フルオロウラシルとレボホリナートとオキサリプラチンを併用する治療です。中心静脈にカテーテルがつながっているポートを皮下に植え込み、点滴で投与する薬は、このポートを使って投与されます。

 治療は2週間1クールです。1日目にベバシズマブとフルオロウラシルとレボホリナートとオキサリプラチンを投与し、その後46~48時間かけてフルオロウラシルの持続投与が行われます。インフュージョンポンプをつけ、2日間にわたって少しずつ薬が体内に入れていきます。現在は2週間毎に通院しています。

 2018年12月、効果判定のためのCT検査が行われ、肝臓のがんが小さくなっていることがわかりました。治療効果が現れていたことでほっとしました。効果判定のCT検査は、最初は治療開始12週間後で、そこからは6週間ごとになります。

 私が受けているのは標準治療のFOLFOX+ベバシズマブ療法ですが、副作用はいろいろ現れてきました。最も問題なのは、オキサリプラチンによる末梢神経障害です。手の指先のしびれでは、キーボードやマウスを触るのに支障をきたしましたし、ドアノブや衣類のボタンを扱うのにも難儀します。また、冷たいものが飲めなかったり、声が枯れてしまったりということもありました。抗がん剤治療ですから、口内炎も起きましたし、吐き気を感じるときもあります。髪も少し抜けました。ベバシズマブの副作用で、鼻血が出て止まらないことがありましたし、血圧も高くなり、降圧剤を飲むことになりました。

 標準治療だけでもこれだけ副作用があるのですから、これにニボルマブが加わっていたら、かなり大変だったかもしれないという気もします。治験を始めるときにコーディネーターから説明を受けましたが、ニボルマブでは免疫が関係するような重い副作用が現れることがあるといいます。たった1回の投与で1型糖尿病になった人もいるとのこと。まれな副作用なのでしょうが、標準治療の副作用が現れている上に、そんなことまで心配しなければならないのは大変すぎるような気がしました。

治験中の生活―会社の理解と妻の支えで治療しながら仕事に復帰

 現在も仕事は続けています。出勤するのは半分ほどで、残りの半分は在宅で仕事をしています。会社への連絡は、大腸がんと診断されたときに、まず上司に話をしました。手術とその後の療養のために長期の休暇が必要となるため、会社に伝えておく必要はあったのです。他には親しい同僚と、課長レベルの部下にも話しました。

 手術による入院とその後の療養で、会社は3か月ほど休みました。職場に復帰する際には、産業医に相談し、無理のない仕事の時短勤務から始めました。職場に復帰したばかりの頃は、まわりの人たちがみんなよそよそしくしているように感じられました。ステージⅣですから、もうあまり長くはないのだろうという憐憫の情があったのかもしれません。

 長期休暇に入る前に、自分がそれまでやっていた仕事の引継ぎは行っていたため、その仕事が自分に戻ってくることはありませんでした。以前と同じ仕事ができていないのは残念ですが、在宅勤務を交えながらでも、仕事を続けられているのはよかったと思っています。

 治療は2週間1クールですが、通院が必要な日とポンプをつけている2日間は、通勤するのを避けています。また、副作用が出る時期が決まっているので、そのときも通勤しなくていいようにしています。在宅勤務が可能だったことは、がんの治療を続けていくうえでは、とてもよかったと感じています。

 今後、自分のがんがどうなっていくのかはわかりません。薬によって肝臓の転移巣が小さくなれば、手術で切除することもできるといいます。ただし、それは薬が非常によく効いた場合です。そうなるかどうかは、わかりません。現在行っている治療は、効いている間は継続すると聞いていますし、効かなくなったとしても、5次治療くらいまで使う薬があるという話も聞きました。しかし、この先どうなるかが見えないため、不安はいつもあります。もう少し何か希望が欲しいと思います。

 私にとって幸運だったのは、身近に妻という理解者がいたことでした。10年前に乳がんを経験している妻は、がん患者のつらさをよくわかってくれています。それによって、私はずいぶん救われました。その点については、妻に感謝しています。

治療歴

2017年12月
排便時に潜血
2018年4月
肛門科を受診、大腸内視鏡検査で大腸がんと診断
2018年5月
国立がん研究センター東病院の大腸外科を受診。ステージIの見込み
2018年6月
腹腔鏡下手術で直腸切除と12か所のリンパ節郭清。2つのリンパ節に転移が判明し、ステージIIIaに。肛門温存と仮設の人工肛門手術も
2018年7月
大腸外科から消化器内科へ
2018年8月
腫瘍マーカーの異常値により、CT検査。肝臓への転移がみつかり、ステージIVに。治験を提案され決断
2018年9月
治験開始。B群のFOLFOX+ベバシズマブ療法に割付
2018年12月
効果判定のためのCT検査。肝臓への転移巣が小さくなっていることが判明
現在
治験による治療をしながら仕事に復帰

治験内容

治験名
転移性結腸または直腸がんを対象に、一次治療としてのニボルマブと標準治療の併用療法と標準治療を比べる非盲検探索的第II/III相試験
対象疾患
転移性大腸がん
治験概要
化学療法による治療歴がない転移性大腸がんに対する治験です。標準治療(ベバシズマブ+オキサリプラチン+レボホナート+フルオロウラシルの併用療法とニボルマブの併用とを比較して、無増悪生存期間、奏効率、全生存期間などで評価する臨床試験です。
フェーズ
第2/3相臨床試験
試験デザイン
無作為化非盲検試験
登録数
180
試験群
ニボルマブ+5-フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン+ベバシズマブ
対照群
5-フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン+ベバシズマブ
主要評価項目
無増悪生存期間
副次的評価項目
奏効率、全生存期間、病勢制御率など