HER2過剰発現またはHER2変異のある再発・進行性非小細胞肺がん対象の第2相臨床試験開始

2018/06/06

文:がん+編集部

 非小細胞肺がんの抗HER2療法のために治療薬「DS-8201」の第2相臨床試験が開始されました。対象患者さんは、HER2過剰発現またはHER2変異のある再発・進行性非小細胞肺がん患者さんです。

HER2に対する抗体薬物複合体「DS-8201」

 第一三共株式会社は5月31日、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)「DS-8201」について、HER2過剰発現またはHER2変異のある再発・進行性非小細胞肺がん患者さんを対象とした第2相臨床試験で、最初の患者への投与を開始したと発表しました。この試験は、DS-8201の乳がん胃がん大腸がん 領域に続く第2相臨床試験です。

 ADCは、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体医薬を介して、薬物をがん細胞へ直接届けるため、薬物による副作用を抑えつつ、がん細胞への攻撃力を高めた薬剤です。

 非小細胞肺がんの治療成績は、近年の分子標的薬免疫チェックポイント阻害剤の登場により大きく改善しましたがまだ十分とはいえず、再発・進行性の非小細胞肺がんにおいては、新しい治療法が必要とされています。

 HER2は、がん細胞の表面に存在し、細胞の成長を促進するタンパク質で、EGFR(上皮成長因子受容体)の1つです。EGFRの中でも構造が似通った受容体をErbBファミリーといい、ErbB1をEGFR、ErbB2をHER2と呼んでいます。

 非小細胞肺がんに対するEGFRを標的とした分子標的薬は、ゲフィチニブ(製品名:イレッサ)、エルロチニブ(製品名:タルセバ)、アファチニブ(製品名:ジオトリフ)、オシメルチニブ(製品名:タグリッソ)の4剤が承認されています。しかし、同じErbBファミリーのHER2を標的にした非小細胞肺がんに対する分子標的薬は、承認されていません。

 非小細胞肺がんの4~35%では、HER2が過剰発現しているといわれ、HER2過剰発現は予後不良と全生存期間の短さに関与しているともいわれています。またHER2変異は、最近になり、従来のHER2過剰発現とは異なる特徴を持つ標的として特定され、非小細胞肺がんの最大5%に見られると報告されています。現在、HER2過剰発現またはHER2変異のある非小細胞肺がんの治療で承認されている抗HER2療法はありません。

 今回開始された試験は、前治療を受けたHER2過剰発現またはHER2変異のある再発・進行性非小細胞肺がん患者さんを対象とした第2相臨床試験で、DS-8201の有効性と安全性を評価します。主要評価項目は全奏効率で、日米欧において約80名の患者さんを登録する予定だとしています。

※ErbBファミリーにはErbB1~4まであり、ErbB1=EGFR、ErbB2=HER2、ErbB3=HER3、ErbB4=HER4といいます。