ステージで異なる大腸がん治療 ステージI~IIIの治療方針とは
2017.11 取材・文:柄川昭彦
大腸がんのステージ(病期)は、がんの深達度、リンパ節転移、遠隔転移の状態によって分類されますが、ステージによる治療選択とはどんなものなのか。がんの深達度やリンパ節転移とはなにか、それに対応した手術はどのようにおこなうのか、大腸がんのI~III期における治療方針に関して解説いたします。
大腸がんのステージ分類は、深達度、リンパ節転移、遠隔転移の3要素で決定
大腸がんのステージ(病期)は、がんの深達度、リンパ節転移の有無と範囲、遠隔転移の有無という3つの要素によって決定されます。ステージI~IIIの大腸がんは、内視鏡を用いて完全切除が可能であれば内視鏡治療が行われ、内視鏡治療ができない場合には腹腔鏡や開腹手術でリンパ節を含む病変腸管の切除が行われます。内視鏡治療で取った組織は顕微鏡で調べ、その結果、追加で腸管切除手術が必要と判断されることもあります。切除手術ではがんと一緒に腸管を切除し、がんが転移している可能性があるリンパ節も取り除きます。直腸がんの手術では、技術の進歩により肛門を温存できるケースが増えていますが、がんの悪性度やがんができた部位によっては、人工肛門(ストーマ)が必要になることもあります。ステージIIのハイリスク群とステージIIIに対しては、手術後に再発予防のための補助化学療法(抗がん剤治療)が行われます。
大腸壁は、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜、という5層構造になっています。大腸がんは粘膜から発生し、徐々に深いほうへと増殖していきます。リンパ節転移も遠隔転移もなければ、がんが粘膜にとどまっている場合がステージ0、がんが粘膜下層あるいは固有筋層に達しているが固有筋層を越えていない場合がステージI、がんが固有筋層を越えている場合がステージIIです。
大腸の近くにあるリンパ節を所属リンパ節といい、所属リンパ節への転移があるが、遠隔転移がない場合がステージIIIです。遠隔転移や所属リンパ節から遠く離れたリンパ節に転移がある場合はステージIVとなります。ここでは、ステージ0~IIIまでの治療について解説します。
ステージ0 | がんが粘膜内にとどまっている |
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ステージI | がんが固有筋層にとどまっている |
ステージII | がんが固有筋層の外まで浸潤している |
ステージIII | リンパ節に転移している |
ステージIV | 血行性転移、または腹膜播種がある |
早期の大腸がんで行われる内視鏡治療の3つの方法と適応範囲
内視鏡治療は、肛門から大腸に内視鏡を入れ、その先端から専用器具を用いてがんを摘除する治療で、3つの方法があります。
- ポリペクトミー
- 盛り上がった腫瘍に対して行われる治療です。内視鏡の先端からスネアと呼ばれる金属製の輪を出し、それを腫瘍にかけて根元を締めつけるようにします。そして、高周波電流を流して腫瘍を焼き切ります。
- EMR(内視鏡的粘膜切除術)
- 盛り上がっていない腫瘍に対して行われる治療です。腫瘍ができている粘膜の下に液体を注入し、腫瘍を盛り上がった状態にします。そこにスネアをかけ、高周波電流を流して焼き切ります。2cmまでの小さな腫瘍を治療するのに適しています。
- ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
- 盛り上がっていない腫瘍で、EMRでは取れないような大きさの腫瘍が対象となります。腫瘍ができている粘膜の下に液体を注入し、腫瘍を盛り上がらせてから、腫瘍の周囲を内視鏡の先端についた電気メスで焼き切り、粘膜下層からはがし取ります。
内視鏡治療は開腹しませんし、腸管も切らないので、手術に比べると身体的な負担が軽い治療です。ポリペクトミーやEMRは、通常入院を必要とせず外来で治療が行えます。大きな病変の切除やESDの場合には短期の入院が必要となります。
内視鏡治療の対象となるのは、がんが粘膜に止まっているステージ0と、がんが粘膜下層に達しているステージIの一部です。がんが粘膜下層に達している場合は、切除した病変を顕微鏡で確認して次の4つの条件に該当しなければを満たしている場合に、内視鏡治療のみで治療が終了となります。
4つの条件とは、(1)低分化がんではない、(2)粘膜下層への浸潤が1mm未満である、(3)がんが粘膜下層の静脈やリンパ管に入っていない、(4)がんが周囲に飛び火していない、というものです。この4条件のどれかに該当する場合には周囲のリンパ節に転移している可能性があり、追加の腸切除手術が推奨されています。
内視鏡治療が可能ながんかどうかは、内視鏡検査やCT検査でだいたいわかります。しかし、正確なことは、実際に治療して切除した組織を、顕微鏡で調べてみなければわかりません。そのため、内視鏡治療が終わってから、内視鏡治療では十分でなく、追加の手術が必要といった判定になることもあります。
ステージIIIまでの大腸がん手術では病変を含めた腸管とD3リンパ節切除が基本
ステージIIIまでの大腸がんで、内視鏡治療が適応とならないものに対しては、切除手術が行われます。手術では、がんと一緒に周りの正常腸管を切除し、転移の可能性がある所属リンパ節も取り除きます。リンパ節を取り除くことをリンパ節郭清(かくせい)といいます。
大腸は、肛門の手前の「直腸」と、それ以外の「結腸」とに分かれます。結腸にできたがんを結腸がん、直腸にできたがんを直腸がんと呼ぶこともあります。
プロフィール
板橋道朗(いたばしみちお)
1984年 東京女子医科大学第二外科入局
1989年 東京女子医科大学第二外科助手
2001年 東京女子医科大学第二外科講師
2009年 東京女子医科大学第二外科准教授
2016年 東京女子医科大学消化器外科准教授