手術不能の進行肺がん治療、ステージ4の生き方 EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対するプレシジョンメディシンと副作用を考慮した治療選択

加藤晃史先生
監修:神奈川県立がんセンター呼吸器内科医長 加藤晃史先生

2017.9 取材・文:柄川昭彦

 EGFR遺伝子変異陽性の進行期の非小細胞肺がん治療は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が有効で、適切に使用することで以前に比べ長期生存が可能になっています。現在、第1選択薬として使えるEGFR-TKIが3剤あり、どの薬を使ったら良いかは、患者さんの状態、患者さんの生き方によるところも多く、どのように使い分けるかが重要です。EGFR-TKIの薬剤選択や副作用対策、耐性ができた後の治療法などについて解説します。

ステージ4の非小細胞肺がん
EGFR遺伝子変異陽性なら1次治療は3種類のEGFR-TKIから選択

 EGFR遺伝子に変異がある非小細胞肺がんは、比較的早い時期から転移を起こしやすく、発見されたときにはすでに遠隔転移を起こしていて、ステージ4と診断されるケースが少なくありません。脳、肺、骨、肝臓などに転移しやすく、小さな転移巣が多発していることが多いのが特徴です。細胞を増殖させる信号伝達に関わる、チロシンキナーゼ(TKI)という酵素が異常に活性化しており、がん細胞を増殖させる原因となっています。そのため、TKIを阻害する分子標的薬が有効です。この薬を使用するためには、遺伝子検査を行いEGFR遺伝子に変異があるかどうかを明らかにしておく必要があります。
 現在、日本で使用できるEGFR-TKIは4種類あります。開発された時期の違いにより、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)とエルロチニブ(商品名:タルセバ)が第1世代、アファチニブ(商品名:ジオトリフ)が第2世代、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)が第3世代と呼ばれています。
 この4種類の薬のうち、1次治療で使用することができるのは、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブの3種類です。現在オシメルチニブは、EGFR-TKIによる1次治療で耐性ができた場合に、使用できることになっています。
 EGFR-TKIが登場する前、EGFR遺伝子に変異がある非小細胞肺がんに対するステージ4の治療は、プラチナ製剤を併用した化学療法が標準治療で、その治療を受けた患者さんの生存期間の中央値は1年程度でした。現在は、EGFR遺伝子変異陽性の患者さんが、EGFR-TKIによる治療を受けた場合の生存期間中央値は2年を超え、3年近くまで延長しています。

1次治療のEGFR-TKIをどのように使い分けるのか

 EGFR遺伝子の変異には、さらに細かい変異の違いがあり細分化されています。「エクソン19欠失変異」と「エクソン21のL858R点突然変異」の2つが9割を占め、残りの1割を、多くの種類の変異が占めています。
 EGFR遺伝子変異のなかでも「エクソン19欠失変異」と「エクソン21のL858R点突然変異」タイプでは、EGFR-TKIが効果的な人が多くいます。しかし、このほかの変異の中には、EGFR-TKIがある程度効くタイプもあれば、効果的ではないタイプもあります。そのため、EGFR遺伝子変異陽性という結果が出てもEGFR-TKIの効果には差があります。
 EGFR遺伝子変異がある非小細胞肺がんに対するステージ4の1次治療の選択は、「エクソン19欠失変異」と「エクソン21のL858R点突然変異」の有無、患者さんの全身状態、年齢によって異なります。
 「エクソン19欠失変異」と「エクソン21のL858R点突然変異」があり、全身状態がいい75歳未満の患者さんでは、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブの3剤が強く推奨されますが、75歳以上ではゲフィチニブとエルロチニブの2剤が推奨となります。歩行や身の回りのことはできるが、作業はできないような状態の患者さんに対しては、ゲフィチニブとエルロチニブの2剤が強く推奨されますが、日中50%以上をベッドか椅子で過ごすような、状態の良くない患者さんに対しては、ゲフィチニブの使用を考慮しても良い程度とされています。
 また、EGFR遺伝子変異はあるが「エクソン19欠失変異」と「エクソン21のL858R点突然変異」ではない場合で、全身状態がいい患者さんに対しては、プラチナ製剤と第3世代以降の抗がん剤を併用した化学療法が強く推奨され、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブのEGFR-TKI3剤の使用は考慮しても良い程度とされています。
 75歳以上と以下という年齢に関しては、暦年齢よりも日常生活の自立度や全身状態によるもので、必ずしも暦年齢で選択するわけではありません。例えば、「エクソン19欠失変異」がある場合には、アファチニブの有効性が高いことを示す報告もあり、全身状態も良く副作用をコントロールしながら継続できる患者さんでは、アファチニブを選択するケースも増えています。

エクソン19欠失変異・エクソン21のL858R点突然変異
75歳
未満
PS 0-1ゲフィチニブ、エルロチニブ、
アファチニブいずれか単剤
強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
細胞障害性抗がん剤科学的根拠があり、行うよう勧められる
エルロチニブ+ベバシズマブ科学的根拠は十分ではないが、行うことを考慮してもよい
75歳
以上
PS 0-1ゲフィチニブ、エルロチニブ
いずれか単剤
強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
細胞障害性抗がん剤科学的根拠があり、行うよう勧められる
PS 2ゲフィチニブ、エルロチニブ
いずれか単剤
強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
細胞障害性抗がん剤科学的根拠があり、行うよう勧められる
PS 3-4ゲフィチニブ単剤科学的根拠は十分ではないが、行うことを考慮してもよい
エクソン19欠失変異・エクソン21のL858R点突然変異を除く
PS 0-1細胞障害性抗がん剤強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブいずれか単剤科学的根拠は十分ではないが、行うことを考慮してもよい

出典:EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2016年より作表

PS 0全く問題なく活動できる 発病前と同じ日常生活が制限なく行える
PS 1肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる 例:軽い家事、事務作業
PS 2歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない 日中の50%以上はベッド外で過ごす
PS 3限られた自分の身の回りのことしかできない 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす
PS 4全く動けない 自分の身の回りのことは全くできない 完全にベッドか椅子で過ごす

出典:Common Toxicity Criteria Version2.0 Publish Date April 30, 1999
(JCOGホームページhttp://www.jcog.jp/より引用)

EGFR-TKIの副作用も考慮して治療法を選択

 EGFR-TKIの副作用として特に注意が必要なのが、間質性肺炎です。間質性肺炎は、5%程度の人に現れることがわかっており、約1~2%の人が間質性肺炎で死亡しています。間質性肺炎を起こしやすいのは、もともと特発性の肺線維症だった人です。このようなハイリスクの人は、EGFR-TKIではなく、抗がん剤による化学療法を選択した方がいい場合もあります。
 EGFR-TKIでも、それぞれ副作用の種類や強さが違います。
 アファチニブは、効果が高い反面、副作用も強いため、全身状態のいい患者さんに対して使われます。肺癌診療ガイドライン2016年でも、全身状態があまり良くない人や75歳以上の高齢者の1次治療では、アファチニブは推奨されていません。
 また、接客業など接遇を職業としている人が、仕事を続けながら治療するなら、顔に皮疹ができるのは避けたいでしょう。そうした人は、皮疹の起こりにくさを考慮した薬の選択もあります。
 EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんは、治療の選択肢が多いため、副作用を考慮した治療選択も大切です。副作用を克服するための方法も進歩しています。たとえば、アファチニブが登場した当時は、副作用の下痢が強いため、使用するのが難しいと考えられていました。しかし、現在は、下痢止めの薬を適切に使用することや、休薬・減量で十分にコントロールできるようになってきています。
 4剤あるEGFR-TKIの中で、副作用が軽いのはオシメルチニブです。現在は2次治療以降にしか使用できませんが、1次治療でも使用できるようになると、その副作用の軽さから広く使われる可能性があります。ただし、オシメルチニブを含めてどのように治療を進めるのが最もよいのか、現時点では明らかになっていません。

耐性ができた後も治療を続けるために

 EGFR-TKIは優れた効果を発揮しますが、それがずっと持続するわけではありません。いずれ耐性ができ、薬が効かなくなってしまいます。耐性ができるまでの期間の中央値は、第1世代薬のゲフィチニブで約10か月、第2世代薬のアファチニブでも約13か月です。
 EGFR-TKIは、がん細胞の表面にあるEGFR遺伝子に結合することで、がん細胞の増殖信号が出ないようにする仕組みで作られています。耐性ができて効かなくなるのは、EGFR遺伝子に変異が起き、薬が結合できなくなるからです。最も多い変異が、「T790M」という変異で、EGFR遺伝子の790番目のアミノ酸が、T(トレオニン)からM(メチオニン)に変わってしまう変異です。オシメルチニブは、「T790M」変異にも結合できるように設計された薬です。
 EGFR-TKIを使用していて耐性ができた場合には、がん組織を再採取し、EGFR遺伝子に「T790M」の変異があるかどうかを調べます。その結果、「T790M」陽性であれば、オシメルチニブによる治療を受けることができます。
 しかし、薬が効かなくなってから、気管支鏡などで組織を採取するのは大変です。そこで、リキッドバイオプシーという方法が登場しました。血液中にはがん細胞からこぼれ出した遺伝子がわずかに流れているため、血液を採り「T790M」の有無を調べようというもので、2017年7月に保険適用されました。
 この方法は、簡単に行うことができますが、見逃される人が多いことがわかっています。耐性ができた人の中で、「T790M」陽性は約50%を占めていますが、血液検査で陽性になるのは20%程度です。ところが、血液検査で陰性という結果が出ると、再検査を受けるモチベーションが低下してしまうのか、気管支鏡などによる再生検を受けない人が多くなってしまうこともわかっています。
 EGFR-TKIに耐性ができても、そのうちの約半数の人は、オシメルチニブによる治療が受けられる可能性があります。そのチャンスを逃さないためにも、耐性ができた後は、気管支鏡などによる再生検を受けることを基本とし、血液検査はそれができない場合に限って実施するべきではないか、と考えられるようになっています。

実際の治療選択は、患者さん自身の治療に対する考え方も重要

 EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんは、病気のタイプに最も適した治療法を分析し選択するプレシジョンメディシン(精密医療)が進んでおり、個々の患者さんにあった治療が受けられます。しかし、手術のできない進行した肺がんでは、残念ながら現状では根治を目指した治療はありません。
 プラチナ製剤の登場により、生存期間が1年となり、EGFR-TKIでさらに生存期間が延びました。第3世代のEGFR-TKIが開発されたことで、EGFR-TKIの1次治療で耐性ができてしまった人にも、新たな治療薬ができました。いつの日か、根治を目指せる治療法が開発されるかもしれません。実際の治療選択は、患者さん自身の治療に対する考え方も重要です。自分の病気を知り、自分に合った治療法見つけ、ステージ4でもあきらめず治療に取り組んでください。

プロフィール
加藤晃史(かとうてるふみ)

1991年 京都大学医学部 卒業
1991年 天理よろづ相談所病院
2003年 国立がん研究センター中央病院
2008年 神奈川県立循環器呼吸器病センター
2016年 神奈川県立がんセンター