「わたしのがんnet」がん患者さんの声を集め、広める活動

NPO法人わたしのがんnet　共同代表　羽賀涼子さん

2018.10　取材・文　大場真代

　NPO法人わたしのがんnetは、ウェブサイトを通じて、がん患者さんの声を集め、広める活動を行っています。ご自身も急性リンパ性白血病を経験され、現在は共同代表を務める羽賀涼子さんにお話をうかがいました。

16歳のときに急性リンパ性白血病に

　私は、1986年の16歳のときに急性リンパ性白血病を発症し、余命3か月と診断されました。当時は、告知が当たり前ではない時代だったので、私自身は病気のことを知らずに治療を受けていました。とにかく辛かったのは、治療の副作用により髪の毛が抜けるなど、容姿が変わってしまうことです。自分の容姿が変わっていくのを目の当たりにして、「普通の生活に戻ることができるのか？」と、先の見えない不安を抱えていました。また、私が治療を行っていた頃は、骨髄移植が始まったばかりのときで骨髄バンクもまだありませんでした。私は、奇跡的に兄がドナーになれたことで、骨髄移植を受けることができました。

　その後、20代で結婚し、2人の子供を出産しました。この頃、小児がんを経験した人が参加するキャンプで出会ったのが、福岡の小児がん経験者の会でリーダーをしていた延哲也さんです。その当時は、まだわたしのがんnetは設立されていませんでしたが、延さんは、後にわたしのがんnetで共同代表を務める方でした。

「命の大切さ」を伝える延さんの思いを引き継ぐ

画像は「わたしのがんnet」公式ウェブサイトより

　延さんは、13歳のときに急性骨髄性白血病を経験。寛解し、高校教師として働いていた38歳のときに大腸がんだとわかります。再発を繰り返すなかで、教師として多くの子どもたちと向き合い、命の大切さを伝えていました。また、わたしのがんnet内でも「Noblog」として、がんと闘う様子を亡くなるまで動画や文章で配信しており、現在もコンテンツとして残っています。

　延さんは亡くなる前、「自分のすべてを託したい」と私に話してくださいました。死期が近いと感じていた延さんは、この先、自分が生きていたらできたであろうことを、私に託したいと言ってくださったのだと思います。私は最初、「ノブのように出来ない」と躊躇していましたが、延さんに「自分らしくやればいい」と背中を押していただき、延さんの思いを引き継ぐ決意を固めたように記憶しています。その2か月後に、延さんは亡くなりました。

　「元気に生きていることが当たり前ではない」という思いを、さまざまな場所で発信していた延さん。私も同じ小児がん経験者として、延さんの意志を引き継ぎたいと思い、わたしのがんnetの活動に参加することとなりました。

患者さんの体験談を通じて、がんのさまざまな情報を発信

　現在、わたしのがんnetでは、がん患者さんの声をさまざまな形で届ける活動を行っています。「がん一万人の声」では、がんになって苦しかったこと、治療のこと、お金のこと、同じ病に苦しむ方たちを支える言葉など、さまざまな患者さんの声を発信しています。「がんと生きる日々」では、がんとなっても希望を持って生きる人たちの物語をドキュメンタリー映像として掲載しています。

　また、2018年4月には、闘病記を中心に扱うオンライン古書店を運営し、大腸がんで亡くなった星野史雄さんの意志を引き継ぎ、静岡県伊東市に「闘病記図書館パラメディカ」をオープンしました。星野さんが遺した7000冊の闘病記をバリスタが淹れたコーヒーを飲みながら読める場所として、月に4回程度開放しています。その他、がん患者さんの集いの会や、リレー・フォー・ライフ、骨髄バンクなどの活動にも参加しています。

がんとともに生きる人たちの声を届けていきたい

　最近、私たちの運営事務所は、近隣の小学校の子どもたちの憩いの場としても機能しはじめています。子どもたちは、学校のこと、友だちのことなどを楽しそうにお話してくれます。そして、ここががん患者さんに携わる活動をしている場所だとわかると、「お父さんが、がんになった」と話してくれたり、「がんの人って働けるの？」「白血病って死ぬの？」と、子どもたちから質問してくれたりします。現在は、病気に関するマンガを置くなどして、子どもたちががんやその他の病気を知る場所となっています。

　私は、延さんがつないでくれた縁のおかげで、わたしのがんnetの活動に携わることになり、さまざまな人たちと出会うことができました。受け入れてくれたがんnetや、応援して下さる方々にとても感謝しています。今後は、がんと闘う患者さんへはもちろん、未来を生きる子どもたちのもとへ、がんとともに生きる人たちの声を届けていきたいと思っています。