前立腺がんの「ロボット支援手術」治療の進め方は?治療後の経過は?
- 吉岡邦彦(よしおか・くにひこ)先生
- 東京医科大学病院 泌尿器科教授兼ロボット手術支援センター長
1962年千葉県生まれ。87年島根医科大学卒。同年慶應義塾大学医学部泌尿器科、92年チューレン大学留学を経て、2001年東京医科大学病院泌尿器科に入局。11年8月教授に就任。同年10月よりロボット手術支援センター長を兼務。日本で初めて手術用ロボットを泌尿器科に導入し、現在前立腺がん、膀胱がんのロボット手術件数は全国No.1を誇る。
本記事は、株式会社法研が2011年7月24日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 前立腺がん」より許諾を得て転載しています。
前立腺がんの治療に関する最新情報は、「前立腺がんを知る」をご参照ください。
人の手より細やかな動きを可能にした
手術支援ロボットは、医師の手の動きを忠実に反映しながら、より精緻な作業を可能にします。今後、本格的な普及が見込まれている治療法です。
ロボット支援手術を行う施設は増えている
前立腺がんのロボット支援手術は、手術支援ロボットを使って前立腺をすべて切り取り摘出する治療法です。前立腺全摘除術を行うという意味において、開腹手術となんら変わりはありません。ただし、コンピュータを組み込んだハイテク機器である手術支援ロボットを道具として使うところが異なります。傷口が小さく、出血も少ない腹腔鏡(ふくくうきょう)手術と、安全確実な開腹手術のメリットをあわせもった治療法といえます。
治療成績では、ロボット支援手術は開腹手術に比べて、断端(だんたん)陽性率(がんの取り残し)が低くなっています。また、手術中の出血も開腹手術に比べて非常に少なくてすみます。多くの患者さんで術後に尿失禁がみられるところは開腹手術と同じですが、ロボット支援手術のほうが回復が早いこともわかっています。ただし、ロボット支援手術であっても、数%の人には尿失禁が残ってしまいます。この割合は開腹手術と変わりません。このほかの合併症については、開腹手術とほぼ同じレベルです。
日本では現在、手術支援ロボットを使って前立腺がんの手術を行っている施設は限られています。そのなかには、先進医療が認められている施設と、先進医療は認められていないが自由診療で使っている施設があります。
アメリカでは現在、前立腺がんの手術の85%以上がロボット支援手術となっており、標準的な治療法としてすっかり定着しました。日本でも導入する施設が増えています。ロボット支援手術は、医師の手よりも微細な作業ができるので、熟練した医師が増えてくれば、将来的には開腹手術よりも合併症を少なくできる可能性が高いと考えられます。
全国にまだ十数台しかなく東京医大では年に146例
アメリカでは2001年に、世界で初めて前立腺がんの治療に手術支援ロボットが使われ、翌年から本格的に使われるようになりました。日本では東京医科大学病院が、2006年8月に初めて導入しました。当施設では、2010年10月に前立腺がんのロボット支援手術が先進医療として認められています。同様に、金沢大学附属病院、九州大学病院で先進医療として認められています。
手術支援ロボットには、新旧2機種がありますが、機能の面ではそれほど大きな違いはありません。前立腺がん治療に用いられているものは、旧機種は全国で3施設、新機種は全国で11施設に置かれています(いずれも2011年6月現在)。東京医科大学病院には旧機種1機、新機種2機があります。
当施設では、前立腺がんのロボット支援手術を導入した2006年には年間14例実施し、以後、少しずつ増えて、2010年には146例を実施しています。ロボット支援手術を開始した2006年、前立腺がんの開腹手術は71例ありましたが、2010年では12例にまで減少。当施設では、いまや前立腺全摘除術の大半がロボット支援手術になっています。
一定基準以上ながら医師の技量の差が現れる治療法
前立腺がんのロボット支援手術は、限局がんがもっとも適しています。局所進行がんに対しても行われていますが、限局がんに比べて再発リスクが高くなります。これは開腹手術と同じです。
一方、手術支援ロボットを扱う医師については、十分な技術や経験をもつように一定の基準が設けられています。具体的には、日本泌尿器科学会と日本Endourology ・ESWL学会が、泌尿器科領域で手術支援ロボットを使う場合のガイドラインを定めています。
ロボット支援手術は、医師が手術支援ロボットという道具を操作して行う手術であり、ロボットが人になり代わって自動的に手術を行うわけではありません。このため、あくまでも手術を行う医師が前立腺がんの開腹手術あるいは腹腔鏡手術を的確に行えることが大前提になっています。開腹手術あるいは腹腔鏡手術に熟練した医師が正しくトレーニングを積めば、ロボット支援手術も上達します。手術の技術レベルが高い医師は手術法がなんであれ適応できるということになります。手術支援ロボットは、医師にとって非常に便利な道具ですが、手術である以上、個人の技量の差が出るのは避けられません。だからこそトレーニングが大切なのです。
ロボットという言葉に、「なんでも解決してくれる夢の未来技術」というニュアンスを感じ、過剰な期待を抱く人がいます。手術支援ロボットはあくまで医師が使う道具と了解し、治療法選択肢の一つと考えるべきでしょう。
治療の進め方は?
専用の操作ボックスで3D動画像を見ながら、アームの先端に取りつけた手術器具を操作し、前立腺をすべて切り取り摘出します。