【がんプラス5周年×CaNoW】網膜芽細胞腫の患者さんと家族が叶えた「家族全員のご褒美旅行」

取材・文:がん+編集部

がんプラスはサイトオープン5周年を記念し、グループ会社であるエムスリー株式会社が展開する「CaNoW(カナウ)」と共に、がん患者さん・ご家族の願いを叶えるイベントを開催。希少がんの1つ、網膜芽細胞腫の患者さんの竹田ゆうき君(6歳・幼稚園年長)とご家族が叶えたイベントの様子をレポートします。(お話は、ゆうき君のお母さん、ひろこさんにお伺いしました)

竹田家の皆さん(中央がゆうき君)と、2日目から合流した、ひろと君(仮名)とひろと君のお母さん(右)

「治療をがんばったゆうきだけでなく、家族全員にご褒美を」

今回の主役は宮城県に暮らす、現在6歳の竹田ゆうき君。ゆうき君は生後約5か月で両眼性の「網膜芽細胞腫」という、目の網膜にできるがんであることが判明しました。診断から現在に至るまで、ほとんどの治療は東京の国立がん研究センター中央病院で行われ、宮城の東北大学病院でフォローアップを受けるという体制で治療を続けてきました。

竹田家は、ゆうき君、お父さん、お母さん、ゆうき君の7つ上のお姉さん(みゆさん)、5つ上のお兄さん(はるき君)の5人家族ですが、お母さんとゆうき君の2人だけが頻繁に東京の病院に。3人は宮城の自宅で帰りを待つ日々でした。

「2022年の夏、ゆうきの誕生日に、しばらくおさまっていたがんの再発がわかったんです。秋に片目を摘出する大きな手術を受け、義眼の装着が始まりました。ここ数年はコロナ禍でもあり、長期にわたって家族全員そろっての旅行はできていませんでした。ゆうきの治療がひと段落したら、家族全員へのご褒美としてどこかに旅行に行けたらなと思っていたので、今回、応募させてもらいました。実行できるとなり、上の2人の子どもたちに話をしたら『今回は留守番しなくていいの!やった~~!!』と喜んでいましたよ」。

「せっかくならゆうき君が好きなことにちなんだ旅行にしよう」。実施に向けたCaNoWスタッフとの打ち合わせで話にあがった1つが、最近話題の“色を塗る”シューティングゲーム「スプラトゥーン」でした。そこで、ゲームのように水鉄砲で色水を実際にかけて遊ぶイベントを含む、家族旅行を計画することになりました。

千葉で「リアルスプラトゥーン」体験、鴨川シーワールドも

実行日は2022年の年末、旅行先は千葉県です。リアルなスプラトゥーン体験に協力してくれた団体の拠点がある千葉県鋸南町と、近くの水族館テーマパーク・鴨川シーワールドへの滞在を含む1泊2日の旅です。

1日目は鴨川シーワールドへ。宮城から新幹線で東京駅に、千葉まではジャンボタクシーで、海ほたる経由で移動しました。車中は初めて会うCaNoWスタッフの大人たちに緊張している様子のゆうき君でしたが、徐々に打ち解けていきました。

鴨川シーワールドでは、豪快なジャンプや水しぶきに圧倒される大迫力のシャチのショーを見たり、一緒に記念写真をとったりして楽しみました。

2日目は、旅のメインイベント・リアルなスプラトゥーン体験です。この日、ゆうき君と同じ6歳で、ほぼ同じ時期に同じ治療を受けてきた網膜芽細胞腫の「戦友」、ひろと君(仮名)とお母さんが合流。一緒に体験に参加しました。

2人の再会は5年ぶりとあってお互い緊張ぎみ


ひろと君たちは現在海外に住んでいるそうですが、たまたま帰国して東京にいるということを聞き、今回のお誘いとなりました。お母さん同士はLINEで日常的にやりとりをする仲ですが、実際に会ったのは5年ぶり。ゆうき君、ひろと君もお互いちょっと緊張した面持ちであいさつしました。

体験前に、全員真っ白なTシャツに着替え、レインポンチョをかぶって色水がついても大丈夫なように準備。そして、ゆうき君とひろと君が絵具を混ぜて色水づくりをしました。

目に入らないよう、人に向けて打たないというルールで


水鉄砲に色水を入れた後は、大人チームと子どもチームに分かれて対抗戦です。「陣取りゲーム」として、真っ白な大きな布に思い切り色水を連射、どっちの色がたくさん塗れたかを競うバトルと、ゲームのキャラクターをイメージした「的」に色水を当てて撃ち落として、点数を競うバトルの2つを実施。結果は、もちろん子どもチームの勝ちです!


ゲーム後は、着ていたTシャツを脱いで、絵筆に含ませた絵具を指先で散らしたりして思い思いに色を重ねて、オリジナルTシャツをつくりました。

リアルなスプラトゥーン体験後は、室内でボードゲームをしたり、近くの海岸を散歩したりして過ごし、充足感とともに東京駅へ。当日中に宮城県へ一家そろって戻りました。

「この2日間、本当に楽しかったです。家族みんなそう言ってます!ありがとうございました。そして、何より良かったなと思うことは、義眼を使うことに対してゆうきが小言を言わなくなったことでしょうか。この旅行の約2か月前から義眼の装着を始めました。旅行前までは何かにつけて『オレは目があれだからな…』とか言いながら、物事に消極的な方でした。色水づくりなど、やりたがるタイプではなかったんです。ですが、義眼の使用歴がゆうきより長いひろと君が、堂々と振る舞っている姿を間近で見て、自分もこういう風に振る舞えばいいのかと思ったのか、何か自信を得たようです。旅行後は、幼稚園に行っても、目について小言を言うことはなくなりました。乗り越えてくれたようで、うれしく思います」。

病気・治療のことは、包み隠さずそのままを本人に伝える

ゆうき君は、言葉を話し始めるよりも前から治療を受けてきました。病気や治療について、ゆうき君にどのように伝えてきたかをひろこさんに伺ったところ、「包み隠さず、すべて話してきた」と教えてくださいました。

抗がん剤治療については、「目にだけ薬をいれるよ」(眼動脈注入療法)、「気持ち悪くなる薬だけど、これしか方法がないの。この薬を使わなきゃ、もっと大きくなっちゃうよ」といったように説明されたそうです。

そして、片目の摘出については、親同士で相談し、東京と宮城の先生に相談もし、本人にきちんと伝えた上で、最終的に本人の意思で摘出することを決められたそうです。

「もう6歳で、大体の嫌な治療は受けてきましたし、ある程度本人は理解できています。再発がわかった時、『もう二度と手術はしたくない、もう病院はイヤだ』と言いました。ゆうきは、てんかんもあるので、これ以上何度も全身麻酔をかけさせたくありませんでした。しっかりと話をして、最終的には本人が納得して、摘出することを決めました。『今の医療では、目の移植をすることはできない。ママの目を、ゆうきにあげたいけど、それはできないの』ということも伝えたと思います」。

将来のことを考えた上で、本人と家族全員が納得した上で治療を進めることが大事、と話してくださいました。

東北地方で網膜芽細胞腫の治療を受けるご家族の役に立てたら

また、最近ひろこさんは、国立がん研究センター中央病院で受けた治療の際に得た情報や資料をまとめて、東北大学病院の小児科の医師に託されたそうです。

「先生同士での情報交換はもちろんありますが、細かい治療の部分は患者さんが直接地元の先生に伝える形です。網膜芽細胞腫の新規患者さんは大学病院で年に数名程度と聞いていて、先生方が多くの情報を得ることは難しいそうです。義眼のことなど、当事者のほうが情報を多く持っていることもあります。私がブログなど個人で情報発信することはできますが、医師から情報を提示されるほうが、患者さんや家族は安心感があると思うんですね。今回託した資料が役に立ってくれたらと思っています」。

ゆうき君はこの春から小学生になります。最後に、ゆうき君にどんな風に過ごしてほしいか伺いました。

「片目が見えてないことを忘れてしまうほど、とっても元気なんです(笑)。治療は一旦ひと段落しましたが、二次がん、三次がんに備え、定期検査を受け続けて、早期発見で向き合っていけたらと思います。そして、思いっきり自分の好きなことを楽しんでほしいと願っています」。

※一部仮名です。※一部画像を加工してあります。