【連載:免疫とがん】 がんに対する免疫の働き

提供元:P5株式会社

がんを攻撃する免疫のメカニズム、がん治療にはどう応用されている?

がんの治療において身近になっている免疫について引き続きお話を続けましょう。
前回は、免疫の働きを担う「T細胞」「B細胞」というリンパ球の働きを解説しました。
今回はがんに対する免疫の働きについて見ていきます。がんの細胞についても、リンパ球の攻撃を受けて排除されます。新しいがん治療の開発で応用されるのはこの免疫の働きです。
免疫によってどのようにがんは排除されているのか。そのメカニズムを見た上で、免疫を応用した具体的な治療法について確認していきます。

がんに対する免疫とは?

そもそも体内では、正常な細胞が変化することで、異常に増殖してしまう「がん化」が起こることがあります。
体内に発生したがん細胞の多くは、免疫の仕組みによって見つけ出されます。
なぜ見つけ出せるのかと言うと、がんになった細胞には目印があるからです。自分と自分ではないものを区別する「抗原」と呼ばれるものが表れるのです。
がんに見られる抗原にはさまざまなタイプがあります。例えば、生まれたときにだけできるはずのたんぱく質ががん化をきっかけに出てくる場合があります。このほか、がんになることで、正常な物質が少しだけ変化したり、がんを引き起こすウイルスの一部が細胞表面に出てくる場合もあります。
がんになることで出てくる抗原を「腫瘍関連抗原」と呼びます。さらに、がん細胞しか持たない抗原を特別に「腫瘍特異抗原」と呼びます。
リンパ球は、こうした腫瘍関連抗原や腫瘍特異抗原を目印にして、攻撃を仕掛けています。

がんを攻撃する免疫のメカニズム

免疫によるがんの排除では、さまざまな細胞ががん細胞を攻撃します。たとえば、がん細胞に出ている抗原を目印に攻撃する「キラーT細胞」、抗原にかかわらず異常な細胞を攻撃する「NK細胞」や「NKT細胞」のほか、T細胞によりがんを攻撃するように活性化された「LAK細胞」などがあります。
いろいろな免疫細胞が協力してがん細胞を攻撃し、排除するのです。
一方でがん細胞は、免疫細胞からの攻撃をかわす仕組みを持っています。
例えば、がん細胞が攻撃の目印になる抗原を隠してしまったり、免疫の細胞の攻撃能力を抑えてしまう仕組みもあります。
このような免疫ががんを排除するメカニズムを理解した上で、現在の免疫を活用したがん治療が生まれてきたのです。

免疫を利用したがん治療

免疫の働きを利用したがん治療にはさまざまな種類があります。いくつかを見ていきましょう。

がんワクチン

予防接種で感染症を防ぐように、あらかじめがんの目印を見つけ出す能力を強めようという考え方に基づく方法が「がんワクチン」です。がんの目印となる物質を予防接種のように投与するのです。
たとえばがんの目印の断片であるペプチドを接種する「ペプチドワクチン療法」やがん細胞を増えないようにして投与する方法などがあります。

免疫細胞を体の外で活性化して注入

がんへの攻撃力を持ったリンパ球を体の外で増やして、がん治療に使えないかという研究も進んでいます。
例えば、血液中にあるキラーT細胞を取り出して、体の外で増やし、再び体に戻すといった治療が研究されています。

がんを攻撃する抗体

リンパ球のうちB細胞は、抗原に対応した「抗体」と呼ばれるたんぱく質を大量に作っています。抗体は、ターゲットとなる抗原に結合します。この特徴を生かして、がん細胞に結合する抗体を人工的に作成したものが、がんの薬となっています。さらに抗体に「毒素」や、「放射性物質」をつけたりして、がん細胞をより効果的に攻撃する治療が研究されています。「ミサイル療法」と呼ばれるものです。

このほかがん細胞の持っている抗原に直接結合するのではなく、がんを増殖させるたんぱく質やがんに栄養や酸素を届ける血管を作り出すたんぱく質などに取り付く抗体も、がんが増えるのを押さえる薬として利用されています。

がんへの免疫を抑える物質を抗体で邪魔する

免疫細胞ががん細胞を攻撃しようとしたときに、この攻撃を抑え込む仕組みが存在しています。「免疫チェックポイント」と呼ばれています。
例えば、「CTLA-4」という分子は、細胞を攻撃するT細胞の表面に出てきて、T細胞の攻撃力を抑えてしまう特徴があります。そこでCTLA-4に結合する抗体でこの働きを抑え、T細胞の攻撃力を復活させる薬が登場しています。

このほかT細胞の表面にある「PD-1」というたんぱく質が、がん細胞の表面に出てくる「PD-L1」というたんぱく質と結合すると、T細胞のがん細胞への攻撃力が落ちてしまいます。そこでPD-1やPD-L1に結合する抗体により、T細胞の攻撃力を回復させる方法があります。

こうした薬は免疫チェックポイント阻害薬といいます。
最近、話題となっている「オプジーボ」という抗がん剤はこのタイプの薬となります。次回、この薬について掘り下げて見ていきます。

T細胞やNK細胞を体の外で処理して注入

がんを攻撃するT細胞も、がんを見分けられなければ、攻撃できません。
いわばアンテナの働きをするものが必要になります。

そこで、T細胞の遺伝子を作り変えて、がんに反応するアンテナの仕組みを加える方法が編み出されています。
がんを見分けるために加えられる仕組みは、「キメラ抗原受容体」、略して「CAR」と呼ばれています。このCARをつけたT細胞による治療はCARTと呼ばれ、新しい治療法として注目されています。

今後の連載ではCARTについても解説していきます。

免疫を応用したがん治療は発展している

免疫を応用したがん治療は多岐にわたっています。次回は、抗がん剤の発達を振り返りながら、免疫チェックポイントを応用した、新しい薬である免疫チェックポイント阻害薬について説明していきます。

  • 参考文献1 矢田純一著 『医系免疫学 改訂14版』 中外医学社. 2016.
  • 参考文献2 デニス・L・カスパーほか編 ,福井次矢ほか監修 『ハリソン内科学第5版』 メディカル・サイエンス・インターナショナル. 2016.
  • 参考文献3 アーサー・C・ガイトンほか原著. 御手洗玄洋総監訳. 小川徳雄ほか監訳. 『ガイトン生理学原著第11版』エルゼビア・ジャパン. 2010.