プレシジョン・メディシンとがんクリニカルシーケンスとは

提供元:P5株式会社


2015年1月に、バラク・オバマ米国大統領が、プレシジョン・メディシン(Precision Medicine:精密医療)への支援を発表しました。このプレシジョン・メディシンの応用として最も注目されているのが、遺伝子異常との因果関係が比較的明らかながん領域です。

がんを引き起こす変異は、いろいろな遺伝子で起こり、がん細胞の持っている遺伝子変異の違いによって、がんの性質や抗がん剤の効き方に違いが出てきます。例えば、細胞を増やすための信号に関係している遺伝子に変異が起きて、信号が無制限に送られるようになることにより、細胞が増え続けることが、がん化の原因となっている場合があります。このような場合、どこに遺伝子の変異があるかを調べ、異常な分子から送られてくる信号を特異的に阻害する薬を投与することによって、効果的ながんの治療ができる可能性があります。

近年、開発されている抗がん剤のうち、分子標的薬(がん細胞中で変異した遺伝子がコードする分子を狙い撃ちし、その働きを抑える薬剤)の開発品が占める割合は近年急増しています。分子標的薬は、変異した遺伝子がコードする分子のみを標的にするため正常な細胞へ与えるダメージが少ないことから、より安全・有効にがんを治療する薬剤として、劇的な治療効果が期待されています。

この分子標的薬を投与する際に実施する遺伝子検査のことをコンパニオン診断薬(CDx)と言いますが、既に本邦で薬事承認を受けているコンパニオン診断薬には、肺がんにおけるEGFRやALK遺伝子検査、乳がんにおけるHER2遺伝子検査などがあります。一方、これらの検査は、単一遺伝子の異常を調べる検査であり、今後、分子標的薬が増えれば、複数の遺伝子変異を網羅的に解析できる検査が必要になってきます。

このような潮流の中、昨今注目されているのが、がんクリニカルシーケンスです。がんクリニカルシーケンスとは、次世代シーケンサー(NGS)と呼ばれる最先端の遺伝子解析装置を用いて、複数のがん関連遺伝子の配列を調べ、これにより得られた解析結果を基に、がんの発症に関わると想定される遺伝子変異を特定します。

がん患者さんのがん組織の遺伝子変異を解析し、それに応じた薬物療法を選択する方法は、現在は特定のがんにのみ導入されていますが、将来はすべてのがんに拡大すると見られています。